第11話
本城名雪の憂鬱①
私は毎日欠かさず夜、寝る前に日記を書いている。
そしていつものようにペンを手に日記を開いたのだが、今日ばかりはどう書いて良いのやらと頭を悩ませてしまう。
学校では男子生徒から告白をされてしまった。高校に入ってから何度か告白される経験はあったのだが、やはり回数を重ねても慣れるものではない。
そして今日の相手というのがまた悩みの種で、学校内でも良い噂を聞かない生徒だったのだ。
その場で断りはしたものの、去り際に「諦めないからな」という捨て台詞を吐かれてしまい、どうしたものかと明里との電話で相談していたのだが、そんな悩みが頭から吹き飛ぶぐらいの衝撃が現実に起きてしまった。
『宇宙人がやって来た』
こんなことを書いても誰も信じられないだろうが、あえて私は今日の日記の最初の一文にそう書き記す。今思い出しても自分が正気なのか疑わしくなってしまう。
アルフリード・レウィス。そう名乗った赤髪の凛とした顔立ちの男性は、いったいどこから取り出したのか、素人目にも明らかに本物だとわかる芸術品のような長剣を私に突き出してきた。
映画やアニメでしか見たことのない状況に私は本当に生きた心地がしなかったが、話の通じる相手だったのが不幸中の幸いだった。
ハイル・ミラー。金髪の如何にも貴公子と言うべき出で立ちの、超が付くほどのイケメン。
アルフリード・レウィスの部下のような言動をしていたが、こちらも例に漏れず常識を逸脱した光景を見せつけてきた。
星術と言う聞いたこともない魔法のような技で、一瞬のうちに家全体を新築だった頃のような綺麗な状態にして見せたのだ。
玄関や廊下、トイレなどは当然として、私の部屋の中の状態から私物までもがピッカピカになっている有様だった。
ミリリアード・レウィス。長い赤髪を二つに縛るツインテールの女の子。
アルフリード・レウィスの妹らしいのだが、共通点は赤髪ぐらいでなんとも愛くるしい顔立ちをしていた。
言動も元気はつらつなお転婆の女の子。ちょっと高飛車なところはあったが、先ほどの二人と違って常識外のことをすることもなく、一番親しみの沸く相手だった。
三人ともコスプレのようなマントやドレスを纏っているものの、それ以外の見た目は外国人と説明できるぐらいには違和感はない。
まだ詳しく決まったわけではないが、話の流れからママは宇宙人を居候させる気満々のようだった。
衣食住を提供するにしても家を綺麗にしてもらった恩を考えれば家に住まわせるぐらいどうとでもない。家全体のリフォームなど業者に頼めば数百万円はくだらないはずだからだ。
父親も単身赴任で家にはほとんど帰ってこないし、場所も物置部屋が余っていたので三人では少し手狭かもしれないが許容の範囲内と言えるだろう。
今更私が反対したとしてもママの考えが変わることはないと断言できる。それはこれまでの経験から予想がついていた。ママは一度決めたら頑として考えを曲げないからだ。
「ちょっと明里に話してみようかな……」
ちょうど日記の一ページを書き終えたところで、人に話せば少しは気が楽になるかと思って明里に電話を掛けることにした。
『どったの名雪? 立て込んでるんじゃ無かったの?』
「いや、それはそうなんだけどちょっと聞いてほしいことがあって……驚かないで聞いてね? 実は、私の家に宇宙人が来たの」
『あははは! 急に冗談なんてどうしたの名雪!? 『うるさいわよ明里! 後がつかえてるんだから早く済ませなさい!』ご、ごめんね名雪、今髪乾かしてる途中だからまた後でかけ直すね!』
「いや、こっちこそ変なこと言ってごめんね。そんな急な用じゃないからまた学校で話すよ」
『そう? じゃあまた学校でね!』
当然と言えば当然の反応だった。
宇宙人が家に来たなんて言葉を真に受ける人間は世界中を探しても存在しないだろう。私だってつい数時間前まではそうだったのだから。
いくら考えたところで現実が変わることはないので深く考えるのは止めにして寝ることにする。もしかしたら今日の出来事は全部夢で明日には宇宙人はいなくなっているかもしれない。
そうなれば良いなと胸に思いながら私は眠りにつくのだった。
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