第9話
それから未来と会話を重ねることで地球の広さ、人口、勢力図といった様々な情報を手に入れることができ、この惑星のおおよその文明レベルは把握することができた。
しかし何気ない会話の最中に思いもよらなかった事実に思わず声を荒げてしまう。
「何!? 星力も星術も知らないだと!!?」
「……そ、そうよ。耳にしたことはないわね」
未来は戸惑った様子を見せながらも質問に答えた。
ここは冷静に交渉を進めていくべき場面にも関わらず感情を表に出してしまったのは失敗だった。
しかしこればかりは仕方がないと言わざる終えないだろう。隣で同じように話を聞いていたハイルも言葉を失っているのだから。
一旦咳払いをして少しの間を開けてから再度質問をする。
「ならこの照明は何を動力にして動いていると言うんだ?」
「これは電気で動いているわ。他にもガスで火を起こしたりもしてるわね」
星術は星力を媒介にして自分が想像したものを具現化できるために電気やガスも生み出せるが、それを動力にするぐらいだったら初めから光や火を出してしまえばいい。
ハイルに視線を向けるとこちらの意図を察して口を開いた。
「私も直接目にしたわけではないですが、星力の総量が低い惑星では電気やガスを動力としていると耳にしたことはあります。しかしそれはあくまで補助的な役割に過ぎません。これだけ凄まじい規模の星力の総量を有しているにも関わらず、星力そのものを認知していないというのは些か疑問を感じざる終えません」
ハイルが懸念しているのは未来の言葉が真実なのかどうかということだろう。
それは俺自身も懸念したために注意深く目の前の地球人親子を観察していたが、見た限りでは嘘を吐く際に生じる表情の変化や不自然な目線の移動などは見られなかった。
「その星術? というのは今見せて貰うことはできるのかしら?」
それはこちらとしても都合の良い申し出だった。本当に星術を知らないのであれば、直接目にした時の反応を見ればそれが嘘か真実かを断ずることはできるだろう。
「承知した。念のために言っておくが、こちらに敵対する意思はないので安心してくれ」
俺は右手の人差し指と中指を揃えて星術の構えを取った。
星術を発動する場合は周囲に漂う星力を利用するか、自らの体内に存在する星力を利用する二つの方法がある。
自らの星力を消費して星術を発動させる場合は使用者が保有する星力の量に見合った規模になるが、周囲に漂う星力を利用する場合は術者の技量次第でその規模は大きく膨れ上がる。
俺の場合は星力の扱いに長けているわけではないので今回は自らが保有する星力を利用して星術を発動させる。
数秒の間、手のひらの上に火球を具現化させた後、周りに火が移ってしまっては元も子もないのですぐに火球を消し去った。
今回の火球は握りこぶしサイズのものだったが、俺の場合はその気になったとしても人と同じぐらいのサイズが限界だ。これがハイルなら山一つ吹き飛ばせる火球を生み出すことは雑作もない。
「な、何もないところに火が……」
「……手品ではないのよね」
やはり二人の反応を見るに嘘を吐いているようには見えなかった。
偽装に長けていたとしてもそれをこの場で行う利点は皆無な気がする。相手はこちらの情報を持っていないのだから仮に星術を知っているのであれば隠さない方が得策だろう。
この惑星の星力の規模を考えれば星術を使えると言うだけでこちらとしては慎重に行動せざる終えなくなるからだ。
まぁ、使えないのが真実だとしてもそれはそれで警戒する必要はあるのだが。
「そういえば行く当てがないって言ってたけど、物置部屋で良ければ自由に使ってくれてもいいわよ?」
「ちょっとママ! 本気で言ってるの!?」
「だってこのままサヨナラってわけにもいかないでしょう。それにこんな小さな子を放り出すのは忍びないわ」
ミリアの頭を撫でる未来を見て名雪も苦渋の表情を浮かべている。
「そ、それはそうだけど……」
「なら決まりね!」
「こちらとしては非常にありがたい申し出だが、先ほども言ったとおり今すぐ対価を支払うことはできない」
「良いのよ気にしないで。それより遅くなる前にちゃっちゃと済ませちゃいましょう!」
未来はそう言うと物置部屋に案内してくれた。
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