第8話

 控えめに言ってこの料理は俺が今まで口にした食べ物の中で一、二を争う美味さだった。


 あまりの美味さに地球人に対する警戒も忘れて食事に夢中になってしまったほどだ。ミリアとハイルも俺と同じ感想を抱いたことだろう。


 星賊という立場上、宇宙船内で生活することが多いため食事は簡易的な物になってしまう。

 時には文化の栄えている惑星に着陸して食事を取ることもあったが、このレベルの料理には一度もお目にかかった覚えはない。


 二回もおかわりするほどに至福の時間を堪能した後、気持ちを改めて地球人との交渉を再開させる。


「まずは改めて自己紹介させてもらおう。俺の名はアルフリード・レウィス。アルフと呼んでくれて構わない」

「私はハイル・ミラーと申します。私のことはハイルとお呼びください」

「妾の名はミリリアード・レウィスなのじゃ! そなたたちには特別に妾をミリアと称することを許すぞ」


 俺が目配せをすると二人も続いて自己紹介をするが、ミリアの高飛車な言葉を聞いて本城名雪の表情が僅かに曇ったのを俺は見逃さなかった。


「あのー、もしかしてミリアさん? 様? は偉い人なんですか?」

「いや、こいつは俺の妹だが、ただの阿呆だ。奇怪な言動を繰り返すだろうが気にしないでくれ」


 俺の言葉にミリアが反論しようとしたところでハイルがその口を塞いでくれた。


「私は本城未来。未来って呼んでちょうだい」

「承知した、未来殿。ではさっそく本題に入るらせてもらうが、我々は第四大銀河のアルメイヤ太陽系から銀河穴によってこの惑星にワープさせられてきた。そのためこの地球という惑星に関しての情報が何もない。加えて母船を失ってしまったためこの身一つで行く当てもない状態だ。先ほどの料理もさぞかし高級なものであったろうが、今の我々にはその対価を支払う当てがない」

「第四大銀河? 銀河穴? 何のことを言っているのかしら?」

「えっと……どうやらこの人たちは宇宙から来たらしいの」

「何を冗談言ってるの名雪。コスプレをした外国の方なのでしょう?」


 コスプレという言葉の意味はわからないが、未来は俺たちが宇宙から来たことに疑念を抱いているらしい。


 にわかに信じ難いことではあるが、やはりこの地球は惑星間交流がないのだろう。


「私も急すぎて理解が追いついてないんだけど、さっき部屋に戻ったらいつの間にかこの人たちがいたの」

「……宇宙人だと証明することはできるのかしら?」

「×××」


 俺は翻訳機能が備わった指輪を外してから一言話した後で再度指輪を付け直した。


「こうして会話をしていることがその証左であるとも言える。今し方口にした言葉は俺の故郷の言葉だが、少なくともこの惑星のどの言語とも異なっているはずだ。この指輪には翻訳機能が備わっているために装着時は問題なく会話できるが、外してしまえば互いに言葉を理解することはできない」

「確かに一度も聞いたことのない言葉ね。それに喋ってる言葉も日本語にしか聞こえない……なら、私は世界で初めて宇宙人に料理を振る舞った人間ということになるのかしら」


 未来は納得したような顔をすると、これまで僅かにだが感じられた敵意のようなものがなくなり、安心したように穏やかな笑みを浮かべた。


「それで納得しちゃうのママ!?」

「だって玄関から入って来た様子もなかったし、ワープしてきたって話なら納得できるでしょう? それにこの人たちが嘘を吐いているようには見えないわ。こう見えても私は人を見る目はあるの、だから名雪も安心して良いわよ」

「いやできないよ! それに宇宙人なのに私たちとほとんど同じ見た目をしてるじゃない!?」

「それは我々も貴殿ら地球人と同じ人型種だからだ。惑星の環境によって様々だが、安定した環境で正当な進化をして遂げていれば人型種となるのは必然。その反応を見るにこの惑星には他の種族が存在しないようだな。宇宙には異形種と呼ばれる種族も存在し、彼らは人型種とは異なる姿をしている」


 俺の説明を聞いて納得したかはわからないが、名雪は上げた腰を下ろして力なく椅子にもたれかかった。


「差し迫って我々はこの惑星の情報を提供して貰いたいのだが、それは可能だろうか? 今すぐ対価を支払うことはできないが、いずれ必ず見合った対価を支払うと約束する」

「全然構わないわよ、宇宙人と会話するなんてそれだけで貴重な経験だわ」

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