第3話

「発言、宜しいでしょうか?」

「どうしたハイル?」

「我々の現在位置情報が漏えいしたことは問題ですが、近頃の新興星賊の狼藉は目に余ります。デストロイヤー軍を愚弄するなど、アルフリード様を愚弄するも同然。成行きはどうであれ、ここは一度見せしめとして奴らを滅ぼしておくべきかと」


 ハイルの言葉に俺は心の中で溜め息を吐く。

 普段は真面目で荒事を好むような性格ではないのだが、ハイルは何故か俺のことを神のように崇拝している節がある。


 俺のことになると周りを見失って暴走してしまうことは一度や二度の話ではない。

 更に幸か不幸かハイルは星術のエキスパートであり、宇宙でも五本の指に数えられるであろう実力者なのだ。


 星術とは星の核から溢れ出る星力を利用し、様々な事象を具現化させるもの。

 ハイルほどの実力者がその気になれば、今視界の先で戦力を集めている新興星賊も一人で壊滅させるのは容易なことだ。


「いや、だからと言って殲滅なんてしたら星賊間のパワーバランスが崩れるんじゃないか? 新興星賊と言っても見た感じそこそこ大きな組織だろあれは」

「アルフリード様が木っ端星賊如きを心配する必要などございません。愚か者共の争いなど放置しておけば良いのです」


 相変わらず過激な思想を語るハイルを他所にどうしたものかと頭を悩ませるが、いずれにしてもここまで事が進んでは戦争を回避しようがないのもまた事実。


「まぁ、戦うしかないのは仕方がないとして……」


 さすがに殲滅までするつもりはないが、しばらくおとなしくしてもらう程度には損害を与えようと思う。


 だがそれよりも最優先で対処しなければならない問題が存在する。


 ハイルが味方したことですっかり調子を取り戻して「戦争じゃ」「殲滅するのじゃ」と騒ぎ立てるミリアの元へと向かった。


「おい、スペースフォンを出せ」

「な、なぜじゃ!?」


 ミリアは慌ててスペースフォンを持った手を後ろに回す。


「何故じゃないだろう、面倒事を持ち込んだ罰だ。そもそも俺は最初から反対だったんだ。あいつがどうしてもというから一度は了承してやったが、やはりそれはお前の教育に悪影響を及ぼす。金輪際使用することを禁止する」

「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃー!」


 頑固として渡す気のないミリアは唯でさえ狭い宇宙船の中を走り回り、挙句の果ては宇宙船の外への逃亡を試みようとしている。


 俺は一瞬でミリアの前に移動すると、驚いて足が止まった隙にスペースフォンを取り上げた。


「これは没収だ」


 ミリアはこの世の終わりかと言わんばかりの絶望の表情を浮かべて、俺の持ったスペースフォンと今しがたそれを握っていたはずの自分の両手を交互に見返す。


 そして、ようやく現実を知ったミリアは……


「うわあああああ! 鬼いちゃんがいじわるするのじゃああ!」


 案の定ミリアは癇癪を起し、ハイルの元へと泣きつきに行った。

 さすがに不憫に思ったのかハイルが申し訳なさそうな表情で俺に懇願してくる。


「アルフリード様、ミリア様も反省をしている様子ですし、もう少し寛大な処置を……」

「ハイル、お前はミリアの側についたのか?」

「……申し訳ございませんミリア様」


 俺の妹ということでハイルはミリアに対しても礼節を持って接しているが、あくまで妹だからという理由だ。


 ミリアと俺のどちらにつくかと問われれば間違いなく俺を選ぶ。それがハイル・ミラーという男だ。


「裏切りものおおおお!!」


 頼みの綱であったハイルの裏切りにミリアは艦長席に顔を埋めて泣き叫ぶ。


「鬼いちゃんもハイルもいじめっ子なのじゃ! アイリーンに言いつけてやる!!」

「残念ながらアイリーンの奴はしばらく帰って来ない。わかったらそこで反省していろ」


 アイリーンΩオメガ。この場には居ない乗組員の最後の一人。宇宙全土にその技術力を知らしめる惑星の出身であり、その中でも彼女は歴代最高峰と言われるほどの頭脳を持つ超天才。


 この星間航行用小型宇宙船もアイリーン手製の物。現在は見た目も機能も完全に一般的な小型船と同一なため、どこの誰が見ても小旅行中の宇宙船にしか見えないだろう。


 しかし船に内蔵された変形機構を駆使することで、宇宙最強の戦闘艇へと変貌を遂げる。

 その強さは大型戦闘艇が何百と束になってもこの船を墜とすことが不可能なほどだ。


 デストロイヤー軍は、星術の天才ハイル・ミラー。超次元の頭脳を持つアイリーンΩ。そして最後に俺を含める圧倒的な三人の戦力によってその名を宇宙全土に知らしめている。


 ミリアはあくまでもおまけ的存在であり、実はも何も本当に何の力もないただの阿呆だ。

 百歩譲ってデストロイヤー軍のマスコットという存在だろう。


 そしてアイリーンはミリアを溺愛しているので、仮にこの場にいたら少々面倒なことになっていたことだろう。


 アイリーンにも妹がいるらしいのだが、その妹がどうしようもない問題児らしく代わりにミリアを本当の妹のように可愛がっている。


 しかしアイリーンがこの場に以内時点でミリアに味方は存在しない。今も尚泣きわめいているが、少しは反省した方がいいだろうとそのまま放置しておくことにする。


「向こうの戦力も整って来たようだし、そろそろこっちも準備するか」

「何なりと申し付けください」

「ダメ元で聞くが、お前はこの船を変形させられるか?」

「操縦することは可能ですがそれ以外は何とも……奴の技術力は確かですが、なまじ優れ過ぎているために弊害生じてしまうのも考えものですな」

「その通りだな、俺も何回説明を聞いても全く理解できん。あいつにとっては大した事ないのかも知れんが、世間一般で言えば世紀の大発見レベルの技術で埋め尽くされているからな」


 本来の性能を発揮すれば無敵艦となることも可能なこの宇宙船だが、それを活用できるのはアイリーンのみ。


 そのため今のこの船は戦闘面で言えばただの鉄の塊も同然。


「それじゃあ、俺が適当に何隻か沈めてくるからハイルはこの船の防衛に専念してくれ」

「ハッ、全身全霊を懸けて防衛に努めさせていただきます」


 船を守ることぐらいハイルにとっては雑作もないことだとは思うが、せっかくやる気を出しているところに水を差すのも無粋だとそれ以上は何も言わないでおく。


 未だわんわんと泣き叫んでいるミリアを放置して船外へと出ようとしたところで異変が起きる。


 ヴーンヴーンと何かの異常を知らせるサイレンが船内に鳴り響くのだった。

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