第一部完 自分に出来る事 

春の王.紫音は王族が統治する塔に足を踏み入れる。

王族会議室は最上階にある。

最上階は春の族、夏の族、秋の族、冬の族の景色が一望出来る。


「遅いですよ。春の王」

大理石のテーブルに肘をついて、氷のような瞳で見つめる男。

銀色の長髪を靡かせる。

冬の王.雪(せつ)王の証である陰陽のマークをついた淡いブルーの衣を着ている。

外見年齢は紫音と同世代である。


「まあ、俺らが早くつきすぎた。紫音さんは時間通りだよ」

瞼を閉じて髪は赤色。衣も赤。

秋の王.紅葉(こうよう)

紫音達より数年下の世代だ。

「紅くん」

僕は彼の名を呼んだ。自分と雪の間に流れる空気を感じとったのだろう。

夏の女王。通称夏の姫の雅の出奔により、空席となった隣に腰を下ろす。


外の景色が見える窓側の位置に座っている男が口を開く。

栗色の髪、赤いリボンをまとい金色の宝玉をつけている。

この男こそ、四季族の王.キサラである。

夏の姫。雅と同世代である。

「先ほど、春の族の土地方面で暦族の波動を感じた。心当たりはないか?紫音」

王の言葉に紅葉も雪も目を見開く。

「暦族はその存在自体が禁忌の存在。春の族が匿っていたのだとしたら処分は免れませんよ?紫音さん」

「っ...」

普段、自分を慕ってくれる年下の指摘に口をつぐむ。

だが次の一言に目を見開く。

「夏の姫にも困ったものだ。それにしても、姉妹揃って四季族の王族に反旗を翻すとは愚かな女だ」

紫音は雪の胸ぐらをグイッと掴む。

「雪、お前が僕を愚弄するのは構わない。ただ、雅や日向を愚弄するのは許さない!」


紫音や雪が睨み合う中、ゴゴゴという轟音の波動を王のキサラが醸し出す。

「やめろ。2人とも」

その言葉に紫音も手をはなして腰をかける。

雪も乱れた襟を整える。


「改めて問おう。紫音、暦族を匿っているの真実か?」

どうする?ーどう答えるのが正解だ。

眉間に皺を寄せる紫音に紫音をフッと笑う。

「その顔はだいたいのことは分かるがな。四季族が土地で問題を起こさないかぎり、不問にしてやるよ」

キサラの言葉に紅葉は思わず昔の癖で王に呼び捨で問いかける。

「いいのか?キサラ」

「ああ、特例だ。」

(春の族には鴉紋が世話になっているからな...)

瞼を閉じる。

「その代わりに春の族が雅を探しだせ」


交換条件を突き付けられた紫音はため息を付きながら答える。


「了解」


◇◇◇


鴉紋の部屋でシキは鴉紋とタラと待っていた。

ドアががガチャと開けられる。

「お待たせ」


紫音が顔を見せたことで、一同がほっとした。

「大丈夫だった?父さん」

鴉紋の問いかけに頭をよしよしと撫でる。

「もちろんさ。ただ、ちょっと頼まれごとをしてね。」

護衛のタラが眉を寄せる。

「頼まれ事を?」

「夏の姫を見つけろってさ」

(王も軽く言ってくれる。この広い四季族の土地を探すのはどれだけの労力だと)


鴉紋が口を開く。

「出来ることをやっていこう」


(出来る事ー...)

シキは前世の出来事を振り替える。

コンビニの夜勤明け。理乃さんと帰りが一緒になる。

「お疲れ様です。理乃さん」

「店長、お疲れ様」

お団子頭の髪をほどくと印象がガラリと変わるな。

冬の寒さが肌寒い。

理乃さんはベージュのコート、俺は黒のジャンパーを羽織ってる。

「さっき、理乃さんは転生ものの話してたじゃないですか?二度目の人生を味わえるのは良いと思いますけど、知らない世界に1人でいるのは途方にくれませんか。」

俺の問いに理乃さんはくすと笑う。


「きっとその世界でも人とは出逢うから、孤独じゃないと思うな。それに私だったら、今知ってる知識を生かして...」


(自分に出来る事をやっていくかな...)


話し合いをしてる3人に告げる。

「俺も雅を探すのに協力する!紫音、頼みがある。鴉紋もタラも協力してくれ。

この土地に俺は店を開きたい」


俺はコンビニ店長だ。

それしか出来ない。

転生して子どもの姿になって特別な力があるかもしれないが、今の自分に出来る事をやって行く。


そう決意した俺を見る紫音や鴉紋、タラの顔はとても温かみを感じた。


それから8年後ー...


桜の花びらが舞い落ちる。

それを掴むシキ

外見年齢は18歳前後まで成長していた。

白のTシャツ。水色のジャケット。

その上に桜マートと印字された紺のエプロンをしている。

開業前

「春の市場で店に置く品物の買い出ししてくるか。」

シキが青空に笑みを浮かべる。


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