第二部 君へと続く道標①

この世界は四季の力を操る者が支配する世界。

春の族の今は使われてない空き家を改築して、俺はこの土地にコンビニを開くことを決意した。

名前は暦シキ。コンビニ店長であったがある日、強盗に殺されて目が覚めたら、牢屋に繋がれこの世界じゃ、暦族と呼ばれる禁忌の存在に転生しちまった。


赤い眼に黒髪。

鏡を見てもゲームのキャラクターに登場しそうな風貌だ。

理乃さんが見たら喜ぶだろう。

理乃さんとはアニメオタク。俺が働いていたコンビニのパート従業員だ。

あの日、彼女も強盗に殺されてしまったのかと思うと心が痛むが、俺のようにこの世界に転生してくれたらいいなと思う。

桜マートという紺のエプロンをつけて、白いシャツの腕をまくり、俺は春の市場へと足を運んだ。


◇◇◇

俺が理想を口にした8年前

「コンビニ?」

鴉紋の質問に俺は頷く。

「簡単に言えばな。春の市場に売ってる様々なものを一つのスペースで売るってことだ。」

「それは面白いね」

春の王の紫苑も食い付いた。

「そこに夏の姫の人物画を貼れば、探しやすくなるやもしれません」

護衛のタラが進言する。


様々な案を出して具体的にまとめていく。

俺は春の王の特権を使いたくなかったので、自分の力でコンビニを立てようと決意した。

準備期間に8年かかったが、その間にタラに稽古をつけてもらって力の制御の仕方を学んだ。

手からぽーっと炎を放出させる。


「シキ、春の市場に一緒に行こう」

春の族の王の鴉紋

少年のような顔立ちで、背は俺より少し低い。ピンクの布を頭に巻いている。

緑のポロシャツを腕捲りして、俺と同じ桜マートの印字をされたエプロンをつけている。

「おう!」

◇◇◇


春の王の執務室

王の羽織を着て書類に目を通す。

溜め息を溢す紫音。

「どうかされましたか?」

護衛のタラが尋ねる。

「早く夏の姫を見つけろってさ。王族や他の一族からも催促がきたよ」

ぱちとウィンクする。

「四季族の寿命は長い。わずか8年を待てないとは」

タラが眉間に皺を寄せる。

紫音はフッと微笑み、話を変えるように切り出す。

「タラ、今日は桜マートの勤務が入ってるんじゃなかったかい?」

紫音の一言にタラは失念していたというような顔をする。

「そうでした。では、失礼」


執務室を出ていくタラの後ろ姿を見ながら、先ほどの言葉がこだまする。


《四季族の寿命は長い。わずか8年を待てないとは》

(仕方ないんだよ。このままでは僕ら四季族は四季に還ることになる運命だ)


紫音は窓から春の族の土地を見渡す。

そこに映る風景は老若男女が笑いあっていた。


◇◇◇

桜マートと立てかけられた看板を入口に置いて店を開く。

この世界はレジや電子機器の類いがない。

なので商品の売り買いも算盤である。

タラもエプロンをして、シキや鴉紋が買いそろえた商品を棚に入れていく。

さくらんぼのジュースや桜もち。おにぎりやパン類も並べていく。

鴉紋はモップを持って店内を掃除している。

壁に貼ってある雅の人物画を見る。

「今日こそ雅ちゃんが見つかるといいね」

「そろそろ見つからないと困るぜ」

眉を若干下げる鴉紋にシキは返した。


昼時のことである。

3人の牢屋を担当する若い兵士が昼食を買うために来店する。

「いらっしゃいませ」

3人は声を揃えて挨拶をする。

接客は営業の基本だからな。

「俺の担当する牢屋に暦族の若い女がいたな」

まだまだ、暦族への偏見がなくならないことに無意識に拳を握りしめる。

鴉紋もタラも複雑そうな表情をしたが、次に続く言葉に3人とも動きをとめた。

「俺の担当する牢には、数ヶ月前からキレイな女が入ったな。金髪で碧眼の」

俺は思わず兵士に話かける。

「それって、ここに貼ってあるような女性でしたか?」

雅の人物画を指差す。

「そうだ。彼女だ!間違いない、え、夏の王ってまさか彼女が?!」


タラとシキは鴉紋に店番を頼むと、その兵士の手を掴む。

「案内しろ!」

タラは紫音に連絡をすると向かう。

(この8年手がかりさえ見つからなかった雅が、)

前世で強盗に撃たれて、目を覚ましたら牢屋に繋がれて泣いていた俺を優しく抱きしめてくれた彼女の温もりを思い出すとふいに涙がこぼれそうになった。

『待ってろよ。雅』

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