春の市場へ➁

老女が俺の目の前で撃たれた時、俺は前世でコンビニ強盗に殺された記憶を思い出した。

怒りがマグマのように全身に駆け巡る。

比例するように市場周辺が地響きを起こしている。

春の民が騒ぐ。

「何だ?これは」

「見て!あの子、眼が紅い」

「やっぱり、暦族は呪われ」


民の言葉に鴉紋が声をあげる。


「違うよ!!」

シキを庇う位置に立つ。護衛のタラは鴉紋を守れる位置に控える。


「鴉紋様」

「鴉紋ってあの」

春の民の言葉に封じ込めていた傷がチクチクと痛む。

「生まれとか関係ない!シキはシキだ」


「!」

鴉紋の言葉にシキは正気を取り戻したが、力の放出で疲労がピークに達し、その場で意識を手放した。


◇◇◇

店のパソコン。新しい夜勤のバイト入るまで、俺が入るしかないか。

欠伸を噛み締めながら考えていると、肩をポンと叩かれた。

『店長、夜勤の人が足りないなら、私が入りましょうか?』

お団子頭でぽっちゃり体質。

年は俺より上だけど、童顔の為に俺より若く見える。

『いいんですか?理乃さん』

理乃さんは目をぱちくりさせたのち、笑顔で返事をした。

『もちろんですよ』


◇◇◇

「っ、理乃さ」

「シキ、気がついた?」

「鴉紋...」

シキは意識を取り戻した。周囲を見渡すと、ここが鴉紋の部屋であると気がつく。

テーブルには桜の木が一対、花瓶に添えられていた。

そして、ルビーの色をしたさくらんぼジュース

「美味しいんだよ。一緒に飲もう」

はいと鴉紋がシキに手渡す。


(あの老女は春の王に子はいないと言っていた)

この世界でも皆、何かしらを抱えて生きている。

さくらんぼジュースを飲むとまろやかな甘みにポツリと声にでた。

「上手い」


その言葉に鴉紋もタラも笑みを浮かべた。

「そう言えば紫音は?」

「紫音様は王族に呼ばれている」

タラが言うと鴉紋は眉を下げる。

シキはザワリと不安が過った。





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