第4話 春のぬくもりに囲まれて

雅が行方不明ー...

「どういうことだよ!?」


俺は紫音と鴉紋にくってかかる。

2人は眉を下げている。

春の王である紫音が俺に視線を合わせて、口を開いた。


「夏の姫は四季族を救う道を探してるんだろう。自分の命を懸けて」

紫の瞳を持つ紫音は諭す口調で続ける。

「鴉紋、正式に春の族の住人にする手続きをするまで、シキを君と同じ部屋に住まわせてもらってもかまわないかな?」


栗色の髪、今の俺と同じ年頃。10歳前後ー...

春の鴉紋はるのあもん

彼がこの世界で親友と呼べる存在になること。

この時は、まだ知るよしもなかった。

「もちろんだよ。父さん。行こう。シキ」

繋がれた手は春の陽気のように温かく、俺の心に灯がともった。


◇◇◇


紫音は2人が出て行った部屋。紫音は1人ため息をはく。

王の証である緑の羽織を脱ぎ、椅子に腰をかけて、机の引き出しからペンダントを取り出す。

そのペンダントを開けると、ペリドットのティアラをした女性。

顔立ちが雅とよく似ている女性の写真を見つめる紫音。


「夏の姫は君にそっくりだよ。こうと決めたら一直線なところが...日向ひなた

愛しさと切なさが混ざった表情で呟いた。


◇◇◇


鴉紋の部屋は春の居城の西方部に位置していた。

チョコレート色の床、中央にはベッド。

窓から桜が見える位置に机が置かれている。

シンプルな部屋だ。


「いらっしゃい。ここが僕の部屋だよ。シキ。あっ、お帰りなさいの方がいいかな。君の帰る場所になるから」

ニコッと笑う鴉紋と前世でほのかな恋心を抱いていた理乃さんが重なって目に涙がたまる。


「...俺の帰る場所ー..」

前世でコンビニ強盗に殺された。

目が覚めたら異世界にいて、助けてくれた雅も姿を消した。

足元がぐらつくような気持ちだった。

「いてもいいのか。ここに」

目をぱちくちして尋ねる。

「そうだよ。シキ」

笑みを浮かべる鴉紋

「鴉紋...」


『ただいま』


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