第3話 二度目の人生
一か月後、牢屋から解放されたシキは、夏の王,雅に夏の族の城に連れて来られていた。
といっても、俺が捕まっていたのは四季族を束ねる王族が住む居城。
その周囲を春の族、夏の族、秋の族、冬の族。4つの一族が統治している。
それぞれの一族に王族の居城を通ることによって出入りが可能となっている。
昔、禁忌を破った四季族が王族によって出入りを禁じられたこともあるらしい。
「シキちゃん、これを春の族の紫苑さんに届けてくれる?」
雅はある手紙を俺に手渡した。
社長の執務室のような部屋だ。温かみのある部屋の作り机で書類を書いている。
「ちゃんはやめてくれ、子どもじゃないんだ。」
外見年齢は10歳前後だが中身は35歳だ。
「ふふ、ごめんなさいね。シキ」
シキが雅の部屋から出ようとドアのぶに手をかけた時。
「シキ、あなたは自分の思う道に進んでね」
「?」
俺はこの時の彼女の真摯な顔が妙に印象に残ってる。
◇◇◇
春の族に移動する際、俺は思案する。
この一カ月の間考えぬいた。
これは理乃さんが言ってた「異世界転生」という奴なんだろう。
コンビニの休憩時間。バイトのシフトを作ってる時に理乃さんの話声が聞こえる。
『次のオススメは異世界転生のアニメよ』
シフトに入っている高校生のバイトの女の子が笑った。
『理乃さん、異世界物好きですね』
『だって...』
理乃は頬を赤くして一つコホンと咳払いをした。
『この世界で一度、命を落としても違う世界で二度目の人生を生きられるのよ。ワクワクするじゃない』
彼女の楽しそうな顔に俺は思わずふふと笑った。
◇◇◇
もし、理乃さんがこの世界に転生しているとしたら、彼女ともう一度会えるのだろか。俺は首の横に振る。
(考えるのはよそう。この世界でも、雅のように俺を助けてくれた人がいた。)
とりあえず、俺を救ってくれた雅を助けることで、この世界でどう生きていくか考えるか。
◇◇◇
春の族は桜並木が美しい土地柄で、日本の春を感じる景色を堪能できた。
春の王に謁見を願い出ると、彼の息子だという少年が顔を出した。
栗色の髪にピンクの布を頭に巻いている。
その布には陰陽がマーク。
春の
「シキ、父さんに用事?」
キョトンとした顔で尋ねられる。
「ああ。雅に手紙を預かっている」
俺はその手紙を鴉紋に手渡した。
俺は鴉紋と一緒に、春の族の廊下を歩く。
ここの住人は春の桜を連想させる心地よさがある。
大きな扉の前、執務室。
「父さん入るよ」
鴉紋の掛け声にどうぞと声がする。
藍色の髪に紫の瞳。
シンプルなネックシャツとズボン、王の証の緑の羽織には、背中に桜の刺繍が施されてそこに陰陽のマーク。
彼こそが春の王ー...
優しい顔立ちで外見年齢は30代だ。
「シキ、夏の姫から手紙かい?」
夏の姫は雅の通称だ。
この世界では禁忌の赤い瞳を持つ俺に、紫音は朗らかな笑顔を向ける。
雅からの手紙を読んでいる紫音。
「じゃあ、俺は戻るから」
夏の族に戻ろうとするシキに、「待つんだ!」紫音は俺を制止する。
「?」
「シキ、今日から君の住む所は春の族だ」
「何で?」
真剣な声音で告げられてシキはポツリと冷や汗がたれる。
「夏の姫が四季族を出奔した」
出奔ー?
「どういうこと。雅ちゃんがどうして」
鴉紋が手紙を読む。
『紫音さんごめんなさい。私は四季族を出ます。シキのこと春の族で保護していただけませんか?』
四季族の王の1人の出奔
王が許可なく四季族の土地から離れるのは、この世界では重罪とされると夏の族のばあやが話していた。
この日
二度目の人生が大きく動かそうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます