第2話 希望の存在

強盗の一人に銃で撃たれたシキが、次に意識を取り戻した場所は薄暗い牢屋だった。

(どこだ...ここは)

ピチャピチャと雨水が漏れる音。

徐々に意識を取り戻した俺は、両手に繋がれた鎖を見て愕然とした。

「子どもの手...どういうことだ」

誰かがこちらに近づいてくる足音が聞こえて、俺はその方角を見た。

50代くらいの衛兵が声をあげている。

「行けません!あなたのような方がこんなところにこられては」

「王の許可は取ってます」

衛兵に反論する。穏やかな女性の声が聞こえてきた。


俺はこの時、金色で碧眼の瞳をした女性と出逢う。

彼女は目を丸くしたのち、優しく微笑んだ。


「あなたが禁忌の赤い瞳を持つ暦族の少年なのかしら?ルビーのように綺麗な瞳をしているのね」

彼女の話し方や笑顔が理乃さんと重なって、俺は視界が揺らいでぽろぽろと涙がこぼれてきた。


35歳にして年甲斐もなく号泣だ。

(仕方ないだろう?理乃さんが殺されたかもしれなくて、自分も強盗に撃たれて意識を取り戻したら牢屋で。子どもの姿になってるんだ、処なんだよ。ここはっ)

「うっ..ひっく」

泣き止まずにいる俺を見て、目の前の彼女が毅然と言い放った。

「衛兵さん。この子を開放してあげなさい」

「はっ?しかし、暦族の者を野放しにしたら四季族に災いが!!」

「責任は私が取ります」

ピシャリと言われて、衛兵は渋々、俺の牢の鍵を開けて鎖を外した。

「出ろ」と背中を強く押される。


彼女はよろめいた俺を優しく受け止めた。

「暦族の少年、自己紹介がまだでしたね。私の名は夏の族の王。みやびと言います」

白いブラウスに青いスカート。ピンクの羽織の袖には陰陽のマークに三日月が施されていた。

金髪の髪は後ろでまとめて、ペリドットの宝石

がついたティアラをしていた。

彼女の腕の中は、夏の花の向日葵のような香りがした。

俺は牢から出た安堵で再び意識が途切れる。


雅は眠ってしまったシキを抱っこして、「とりあえず夏の族で保護しましょう」牢屋から出ていく。

牢屋から出ると、高級感の溢れる赤い絨毯がひかれていた。

「夏の姫は本気ですか?暦族の子どもを引き取るとは」

衛兵が眉間に皺を寄せて尋ねる。

「いざとなったら、紫苑さんに頼みますよ」

衛兵の問いかけに苦笑する。

「春の王にー?」


「それに感じるのです。この子には」

雅は眠ってるシキの頬にそっと触れた。


『壊れかけている四季族の絆を繋いでくれる希望になるとー...』



◇◇◇






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