第7話

 においは簡単になくならないだろう。布団一式、捨てることにした。


 消臭、除菌。ひととおりやりきったあと、アロマを焚いてみる。

 ペパーミントにグレープフルーツのオイルを少量混ぜた。それから換気して、ひとまず二時間。

 そのあと、ティッシュにオイルを浸し、ベッド周辺と窓のそばに置いた。


 においが気にならなくなるまでは、この部屋では寝られない気がする。

 ホテルは高いから、ネカフェに泊まるしかないかな。


 


 どうしてこんなことになったのだろう。

 さっちゃんの事故のあと、両親に寄り添わなかったから?

 川遊びに一緒に行かなかったから?

 さっちゃんに優しくできてなかった?

 

 そんなの……いまさら、変えようがないことばかりだ。



 ネカフェのリクライニングシートに座り、さっちゃんを想いながら、眠りに就いた。



 私は、川にいた。

 両親とさっちゃんが河原にいる。

 それをすこし離れたところから見ていた。

 父親は、ビールを飲み始めたようだった。母親は、さっちゃんと川に入っていった。

 手を繋いでいる。

 さっちゃんは、かがんで水をバシャバシャしていた。

 はしゃぐ、さっちゃん。

 甲高い声が、河原に響いている。

 和やかな空気だった。


 さっちゃんの手が、母親から離れる。それは、川底の何かに足をとられた母親が、あわてたせいだった。

 

 あぶない。


 さっちゃんもバランスを崩して、一瞬で流された。

  

 母親の叫び声が響く。


「おねえちゃん、たすけて」

 どこから聞こえてくるのだろう。

 さっちゃんが助けを求めている。

 弱々しい声が聞こえてくる。


 これは夢だ。

 これは過去だ。

 助けられない。

 助けたくても。


「きみちゃん、どうして来てくれなかったの」


 河原にいる私の背後から、さっちゃんの声。

 さっちゃん、私を待ってたの?

 

「お父さんもお母さんも、きみちゃんがきてくれないから、おかしくなってるんだよ」


 私を、責めないで――

  

 


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