第11話

 高難易度ダンジョンの中心部。

 賢太はいつものように、素手でモンスターと対峙していた。

 

 相手は以前も戦ったケルベロス。SS級モンスター・ケルベロス。

 三つ首が繰り出す牙と爪を紙一重で見切り、

 賢太はその頭部をひとつずつ殴り砕いた。


 巨体が激しい振動を立て地面にくずおれる。


 いつも通りの光景だった。

 ちがうのは、その光景を後ろで応援している少女の存在。

 輝くプラチナブランドの髪を持つミーティアは、ドローンカメラ越しに賢太の戦いを熱く実況していた。


「さっすが賢太! 通算150匹目おめでとう~!

 お、視聴者数もめっちゃ増えてるよー。10万人も見てくれてるなんて、

 これ一応、わたしのチャンネルなのになぁ」

 

 そう言いながらも、ミーティアは嬉しそうな笑顔を絶やさなかった。


 +++


 学校で賢太が廊下を歩くと、

 常に周囲の視線を集めた。

 

 もちろん、すぐ隣に超有名配信者である天星ミーティアがいるから、ということもあるが、知名度の点でいえば賢太も今では負けず劣らずの有名人だ。


「く、黒上くん……もしよかったらサインください!」

「……いいけど」


 賢太は無気力に渡された色紙にペンを走らせる。

 書きなぐっただけの文字に、しかし声をかけてきた女子生徒は嬉しそうだ。


「賢太ってばやさし~。もっと自分を高売りしないとダメだよ?」

「べつに。減るものじゃないし」


 そのとき、賢太の視線の先で、びくりと立ち止った人物がいた。

 生徒ではない。

 落ち着いたロングスカートに、カーディガンを羽織った女性。

 教科書の束を胸に抱き、

 眼鏡のしたに気弱そうな表情で、目が合った賢太を驚いたように見つめている。


「あ、く……黒上くん」


「どうしたんですか、美里先生」


 美里京子は、去年、賢太の担任だった。

 怯えた表情。

 まるで罪悪感に苛まれているような。


「な、なんでもないの。黒上くん、さ、最近は元気にやってるのかな……?」


「はい、元気ですよ。今は真田くんや柿原くんにイジメられていないので」


「……!」


 さっと美里の顔が青ざめる。

 まさに核心を突かれたというような反応。


「どうしたんですか? べつに気しないでください。

 先生がイジメられていた僕を見て見ぬふりをしてたなんて、

 べつに誰にも言ってませんから」


 その言葉を聞いたミーティアが、目を細めて美里をにらむ。


「えぇ、センセーそんなことしてたんですかぁ?

 それって、教師失格じゃないですねぇ?」


「ち、ちがうの……! あっ……い、いえその、ちがうというか、

 その……本当に見て見ぬふりをしてたわけじゃなくて……その……」


 美里はしどろもどろに弁解しようとする。

 だが賢太はその横を素通りした。


「ミーティア、行こう。それじゃ先生、


 賢太とミーティアが立ち去った後も、

 美里は絶望的な表情でその場に立ち尽くしていた。

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世界から虐げられてきた陰キャ、ダンジョン配信でバズりすべてに復讐する ~無自覚な最強探索者、SS級ヤンデレ美少女配信者に溺愛され人生が逆転する~ ヒトども @_underscore

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