第9話

「ねぇねぇ賢太! 今日の配信はどうする?

 なんかコスプレして攻略しようと思うんだけど、

 ナース服とバニーガール、どっちがいいかなぁ?」


 そんなちょっと非日常的なトークを、

 学校の教室でミーティアは賢太に向かって話していた。


「わぁ、今日も配信するんだ! 絶対見るね」

「私も私も!」

「いいなぁ賢太、羨ましいけど応援してるぞー」


 クラスメイトたちも、賢太とミーティアのカップルを祝福している。

 教室には自然と賢太たちを中心に人の輪ができていた。


 超大人気Stuberである天星ミーティアの、いまや公然の恋人であり

 同じチャンネルの配信者となった賢太は、全国的な有名人となっていた。

 

 となれば、当然学校やクラスでの扱いも変わってくる。

 明るい光に集まる虫のように、誰もが賢太たちに群がってくる。


 それは賢太やミーティアが、探索者として高い実力を持っているからではない。


 だ。


 今の時代、ただ単に金持ちだとか、類まれなスキルを持っているとか

 それだけは、真の勝ち組にはなれない。

 むしろそれを材料にいくらでも叩かれさえする。


 だからこそ、人気者であることが必要なのだ。

 世間から常に肯定されること。

 それは、これまでの賢太の世界には、存在しない概念だった。


 そんな賢太を、クラスの端っこの方で、

 水瀬麻衣は密かに見ていた。


 +++


「ね、ねぇ、賢太くん。ちょっと話があるんだけど……」


 放課後、賢太はひとりでいるとき、

 麻衣から話しかけられた。


「ちょ、ちょっといいかな?」


「……いいよ」


 賢太が頷き、麻衣を空き教室のひとつに連れて行った。

 校舎の端の方にあり、時間帯もあって、

 ほとんど誰も訪れることないような場所だ。


「何? このあとミーティアと予定があるから、

 あまり時間ないんだけど」


「そ、そっか。忙しいもんね! あ、あのね、

 その……賢太くんと、最近あんまり話せてなかったから、

 その……なんか関係が悪くなったりしてるかも、って」


 麻衣は、いつぞやの柿原のような口ぶりで話を始めた。


「そういえば、柿原くん、最近見ないよね?

 なんだかダンジョンに迷い込んで事故にあったんだっけか」


 賢太が淡々と言うと、麻衣はぎょっとして顔を強張らせた。


「でも、命は助かったみたいで良かったね。

 しばらく入院してるみたいだけど」


「そ、そう……だね」


 麻衣は青ざめて震えていた。

 自分たちを敵視している見えないなにかが存在している、

 と麻衣は本能的に感じ取っていた。


「さっき関係って言ってたけど、べつに、僕と水瀬さんの間に

 なにかあったかな?

 水瀬さんは、柿原くんの彼氏で、彼らと一緒に僕に色々なことを強要してたよね?

 真冬で雪が降ってるときに、外で服を脱がされたりもしたっけ」


「そ……! ち、ちがうの!

 私はあのときやめようって、ほんとは言おうとしてたの!

 なのに真田くんたちが無理やり……」


「……べつに、もういいよ。友達だから」


「ほ、ほんと……?」


「ああ。だからあのときのアレも、友達同士の遊びだもんね」


「そ、そっか……。そ、そうだよね!

 ほんともうびっくりしたぁ……」


 麻衣はほっとしたように顔を緩めた。

 だが賢太は、そんな麻衣にうっすらと微笑んだ。


「だからさ、今度は麻衣が、服を脱いでよ。

 ――今、この場所で」


 賢太の言葉に、麻衣は唖然として固まった。


「どうしたの? なんでしょ?」


 さきほど自分が言った言葉をそのまま返され、

 麻衣はなにひとつ言い返すことができない。


「わ……わかった……。言う通りにするから……」


 賢太の目の前で、頬を赤く染めた麻衣が

 震えた手で襟元のリボンに手を伸ばす。

 

 引き抜かれたリボンが、はらりと地面に落ちた。

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