メイドと許嫁
とりあえず案内された食堂で朝食をとる。
「......」
食事中ずっと芯珠は無言で壁に立っていた。
「あの、芯珠さんは食べないの?」
「はい。食べません。私はこの屋敷に使える身。主人と食事などもってのほかです」
「そ、そうか」
気まずくならないように話しかけてみるが、返事は短いけれど簡潔に言ってくるので会話が続かない。
こうなったら無理にでも食事に誘うか。
どう見たって俺一人で食べきれる量じゃないしな。
「いや、でもたまには主人と一緒に食事するのもありだと俺は思うよ」
「......澪未矢様がそこまでおっしゃるのならば仕方ありません。失礼ながら私も食事をいただくことにしましょう。」
意外とあっさり説得できたな。
芯珠が俺の隣に座ってくる。
「あ、あの芯珠さん...?」
「はい」
「少し密着しすぎでは...?」
「そんなことはないかと」
口ではこう言ってるが明らかに密着し過ぎである。
本当に真横に座っているため肩が常にぶつかる。
「......」
しかも無言で食べるし。
これじゃさっきとあんま変わんないな。
「それにしてもこのステーキ?おいしいな、芯珠さんが作っているの?」
「はい。この屋敷の使用人は私ただ一人でありますから」
一人!?
まぁ言われてみれば確かにトレーラーに芯珠以外のメイドは紹介されてなかったが。
「一人はさすがに大変じゃないの?」
「確かにこの屋敷を一人で担当するというのはなかなか至難な業ですが、当主である
そういえばトレーラーではそこら辺の設定は書かれてなかったな。
当主が母親ってことは...
いや、そこらへんは考えないようにしよう。
「とりあえず芯珠さんが信念をもってメイドを務めているのはわかったよ。いつもありがとう」
「当たり前のことをしているだけですから、澪未矢様が礼を言う必要はありません」
徹底してるな。
そこからは特にこれといった会話がなく気まずいまま朝食が終わってしまう。
「いやーご馳走様。芯珠さんが作る料理は本当に美味しいな」
「そう言っていただけると幸いです」
そう言って片付けを始める。
「澪未矢様、お顔にソースがついたままです」
「あ、そうなの?」
布巾を取って顔を拭こうとすると
「え?」
なんと芯珠が俺の頬を素手で触り付近で口の周りを拭いてきた。
「!?//」
俺が驚きのあまり固まっていると
「これで取れました」
そう言って芯珠が手を放す。
「......」
「澪未矢様、どうなさいましたか?やはり神楽様がおっしゃっていたように体調がすぐれないのですか?」
「......//」
唖然と興奮が混ざり合ってなかなか芯珠の言葉に反応できないでいる。
「やはり今日は学校をお休みになられた方がよろしいのでは?」
「......」
「そうと決まりましたら私がお部屋まで連れて行って今日一日介抱いたしましょう」
「それは聞き捨てなりませんわね」
「!?」
謎の声で止まっていた頭が動き始める。
「...
だいぶイラついてそうな芯珠の声。
「あら、これはすみません。どなたかがわたくしの許嫁である澪未矢さんにいかがわしいことをしようとしていたみたいだったので我慢できずに飛び込んでしまいましたわ」
声の方を向くと少し茶髪っぽくこれまた少し身長の高いお嬢様感が溢れる感じの女の子が立っていた。
「お言葉ですか私は澪未矢様にいかがわしいことなどしようとお考えておりません。ただ澪未矢さんの体調がすぐれていないと判断したため介抱しようとしただけでございます」
芯珠も似合わず口数が多くなってきた。
よっぽどこの栄那っていう子が気に食わないのか。
「それは芯珠さんが決めることではなく澪未矢さんご自身が決めることだと思いますけれども」
「では澪未矢様に聞きましょう」
「え?」
とっさに話題を振られた。
「澪未矢様。今日は体調がすぐれないとお見受けしますので学校をお休みになられた方が良いかと」
「零未矢さん、まさか許嫁を一人で学校に行かせるなんてしませんわよねぇ?」
正直言うと学校をサボりたい感はある。
だが栄那の圧を感じる笑顔が怖すぎる。
「いや、芯珠さん。本当に今日は別に体調が悪いわけじゃない。俺のことを気遣ってくれる嬉しいけど大丈夫だから」
「...そうですか」
少し残念そうな顔をする芯珠。
罪悪感が芽生えてくるが許してくれ。
「ふふふ、そうと決まれば早速学校に向かいましてよ、澪未矢さん」
「あ、ああ、そうだな」
栄那に諭されて玄関を出ようとする。
「許嫁...?」
そういえばさっき許嫁とかいう単語が聞こえてきた気が...
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