第28話 別れ

駅からは自動車に乗って移動した。

所要時間は30分くらいだった。

※自動車は普及し始めくらいで内戦があり

まだ一般家庭には普及していなかった。

屋根が付き始めて、前面に窓ガラス張りが

付いたくらいのものを想定しています。


レオルはラビに聞きたいことだらけであったが

ジルとの時間を優先し余り自分から話さなかった。


「ラビは今まで車に乗ったことあるの?」


「多少はね。」


「そうなんだ、すごい。私は車も初めてだよ。

馬車にしか乗ったことなかった。」


「自動車を走らせるには道の整備が必要だ。

少し時間がかかろうとも便利なものは

直に普及していくさ。」


「そっかあ。」


ジルはずっとニコニコしている。

レオルから見ればジルは初めて会った時から

ずっとラビの側では嬉しそうにしている。


「レオルはどうして嬉しそうにしているの?」


「え?嬉しそうにしていたかい?」


「してるよ。どうしたのかなと思って。」


「そうかい?自分でも気付かなかったよ。

きっと2人が仲良さそうにしているのを

見ているのが楽しいからかな?」


そう言ってレオルは微笑んだ。


「ほんと!?仲良さそうに見える??

嬉しいな!ラビに出会ってからずっと

ラビと仲良くなりたいって思っていたの!」


ジルは太陽のように満面の笑みを浮かべた。


「ラビは?ラビはどう思う?

私と仲良くなってるかな?」


「さあ……どうだろう。仲が良いというのは

どういうものなんだい?」


「えーっと……何だろう、どう言えばいいのかな?

そうね、例えば、『ずっと一緒にいたい』って

お互いに思えることかな??」


ジルは精一杯考えて明るく答えた。


「そうか、なら私には永遠に関係のない

言葉だな。」


「……私と一緒にいるの嫌だった?」


途端にジルの顔が曇る。


「そうではない。私は多分誰とも生きれない、

一緒にいることはできない。

今回のことで誰かを守りながら生きる方法を

自分がいかに知らないか思い知らされたよ。」


「私が足手まといだから一緒にいれないの…?」


「ジルは足手まといなんかじゃない。

ただ私は今までしてきたことをいつか

振り返らなくてはいけなくなる。

その時に真っ直ぐに生きようとする者に

何らかの被害を出すわけにはいかない。」


「ラビが厳しい環境にいるからってこと?」


「……そうだな。」


車が孤児院に着いた。

レオルが率先して手続きをしてくれた。

市民の寄付も有り、こじんまりしていても

綺麗な建物で環境も良さそうだった。


「最後の別れの時間を客室でしていていいって、

僕は手続きの続きをするから、ここで話しでも

して待っていて。」


そう言われ、ラビとジルは客室で2人になった。


「思っていたよりずっと素敵な所でよかった。

オジさんが言っていた通りだった。」


「そうだな。」


「オジさんね、あの後死んでしまったの。

あのツリースパイダーがそう言ってた。」


「そうか、身体も細く顔色も悪かった。

元々長くはなく、本人も分かっていたようだ。」


「私ね、オジさんのことすごく好きだった。

とてもぶっきらぼうで荒っぽくて、でもちゃんと

優しいの。」


「そうか。」


「それでね、私、ラビのことも好き!大好き!

あいつはラビのこと冷たいって言ったけど

そんなことない。私分かるよ、ラビは……

本当は……」


「………………」


『優しい』と言おうとして、言い留まった。

ラビにそんな言葉失礼かな、嫌がるかなと思い

じっと顔を見た。

顔を見ても何も読み取れなかった。


「ラビ、私ラビのこと好きになっていい?」


「好きにすればいい。」


「あ、ラビ『好き』って言った。ラビも

『好き』って思うことある?」


「そうだな……好意を抱く、気に入るという

意味であれば、言葉の内容は分かるが

その感情や思いは私の中には無いものだ。」


「そうなの……」


「でもジル、君を見ているとその言葉の意味が

不思議と理解できるよ。」


「ふうん?」


ジルはよく分からずキョトンとした

そして大事なことを思い出した。


「あっ、ラビ、くつひも!くつひも返さなきゃ!」


ジルは大事に仕舞っていた靴紐を取り出した。


「ラビの大事なものだもんね……」


それを返すといよいよお別れである。

ジルは泣かないと決めていたが、顔はすぐに

クシャクシャになってしまう。


「どうした?それを返すのがそんなに嫌かい?」


「ううん、でもこれを返しちゃうと

ラビとの繋がりが無くなっちゃうから……」


「なら一本あげよう。ちょうど二本あるからな。」


「えっ、いいの…?」


「かまわない、こんな紐が君の役に立つとは

思えないが。」


「だって思い出だよ。私がラビと過ごした

大切な大切な思い出。ずっと大切にするね。」


「これは元々ある人から貰った靴に付いていた

ものだ。その人は言っていた。『君には無限の

可能性がある。きっと何だってできる。』と

私はその時その言葉の意味がさっぱり

分からなかった。今では私には勿体ない言葉だと

思うのみだが……」


靴紐の一本をジルに渡した。


「あの人の言葉が半分君に託されるといいな。」


ラビはジルにそう言った。


レオルは2人の会話が終わるまで部屋の外で

待っていた。




そうしていよいよ別れの時がきた。


ジルが孤児院の門まで2人を見送った。


「ラビ、また会えるよね、会いに来て

くれなかったら、私が会いにいくね。」


「私、いっぱい勉強してすっごく賢くなって

立派な大人になる!運動もして強くなる!

そして……そして、ラビの足手まといに

ならなくなったら、絶対会いに行くから!」


そう言ってジルはラビに抱き付き、

強く強くしがみついた。


ラビはまたそっと頭を撫でようとしたが、

思い直して強く、ギュッと抱き返し抱き合った。


これがラビが人と触れ合った最初で最後だった。


「いつも、泣いてごめんね……」


「かまわないさ。」


「ラビ、私、くつひもを貰ったけど、

ラビに何もあげてない。」


「何もいらない。君の顔を見れたからそれでいい。」


「それでいいの?」


ラビは頷いた。

ジルはラビがこんな時に嘘を付くとは思えなかった

ので、仕方なく納得した。


「さよならラビ。大好きだよ。

ずっとずっと、これからもずっと変わらないよ。」


そう別れを言うジルに何も返さず、

ラビは軽く手を振るのだった。


ジルは見えなくなるまでラビをずっと見送った。

手にくつひもを握り締めて。

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