第27話 機関車内

蜘蛛との屋敷を後にし、3人は駅に向かった。

レオルは現場にいる警官達と話を付けている

らしく、ラビ達に同行した。

その時ラビがササー巡査長と何か話したのを

レオルは知らなかった。


途中で少し休憩し、そのまま孤児院へ

向かうこととなっていた。


「もう行かなくちゃダメ?」


ジルはラビと別れたくないあまりややゴネるが


「私といると危険だと分かったろう?」


と言われると、何も言い返せないのだった。


『危険なことはかまわないけれど

足手まといになりたくない……』


そう考えて自分の思いをそっとしまった。


孤児院へ向かう機関車に乗る。

ジルは機関車を見るのも初めてで興奮して

喜んだ。


「これが機関車なんだ!大きい!カッコいい!」


「内戦前は首都まで走ってたんだよ。

内戦が終わったらこの汽車でもっといろんな

所へ行けるようになるはずだ。」


「そうなんだ。」


ワクワクと乗り込み、車窓からの景色を

楽しんでいた。

だが、やがてずっと思っていたことを口にする。


「ねえ、ラビ、あのツリースパイダーという人、

おじ様っていう人に少しは愛されていたのかな?」


「気になるのかい?」


「うん……、すっごい気持ち悪くて

嫌なヤツだったけど、なんか、ね……

なんかすごく苦しそうだった。

ろくなヤツじゃないと思うけど、でも……」


ツリースパイダーのやってきたことが

ろくでもないこととすると、ラビのことも

同様になってしまうのではないかと思い

言葉を噤んだ。


「ジルは優しいな……」


呆れたようにラビは言う。

まるで噤んだ理由まで分かっているようだったが

本当のところは分からない。

例えろくでもないと思われたとしても

ラビは気にしないだろう。


「アイツらの事など分かったところで

面白いことは何もないぞ。」


「ジル、おじ様って誰のことなんだい?」


レオルはずっと気になっていて、やっと

口を挟めた。


「え、っと、私も誰かは分からないんだけど、

ラビは『イーダ』って呼んでたよ。」


「えっ、イーダだって…!?」


レオルは驚きのあまり大声を上げてしまったが、

周りの乗客を意識して慌てて声を潜めた。


「それって、総統陛下の右腕と呼ばれ、

情報部を含む暗部の指揮をしていた人だよな…?」


「それってすごい人なの?」


「すごいなんてものじゃない、

ほとんどこの国を操っていたようなものだ。」


「へぇー…」


ジルはそう言われてもいまいちピンとこなかった。


「そのイーダっていう人はラビのこと

気に入っていたみたいだけど、ラビはその人のこと

……なんていうか……嫌いだったっぽい。」


「いや、嫌うとかそんなことが許される相手では

ないよ、少しでも気に食わなければ多分容赦なく

相手を抹殺してしまうような、それができる人物

なんだ。

普通は恐れ敬う以外できないはずだよ。」


「でもラビだよ?」


「そ、そうだな……」


そう言って2人はラビを見た。


「……別にイーダのことをどうこう思ったことは

ない。ヤツは私に命令を出す立場だったから

その命令を聞く他にあの頃の私は考えることは

何もなかった。」


「それでも蜘蛛は私に嫉妬してきた。

アイツは、イーダは他人に命令を聞かす以外に

何の目的も持っていないような奴なのにな。」


そしてラビはふっと息を吹く。

ため息のようだ。


「イーダはな、命令を聞く人間をコントロール

するために何を利用したか。

愛情があると思わせ信頼と見返りを求めた。

ではなぜ私などを重用したと思う?」


ラビにしては余りにも珍しい問い掛けだ。

2人は何も答えられなかった。


「本当は愛情を与える『振り』だとしても

それがとても面倒くさかったようだ。

だからそれが必要ない私のような手足を欲した。

それが話をややこしくさせる。

私は必然的に蜘蛛のような奴らに恨まれて

しまったわけさ。」


「ツリースパイダー以外にもラビのこと

嫌っている人がいるの?」


「ああ、『息子達』がな。」


その時キキ、キキキーッと音がして、機関車に

ブレーキがかかる。

やがて機関車は目的の駅に到着した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る