第25話 蜂と蜘蛛(6)

イーダはとある街で小さな女の子が

保護されて、その子は言葉もほとんど話さず

感情も薄く、ほとんど反応が無いという

情報を得た時、飛びつくように

その子を手に入れ、教育しようとした。


しかしどう接しても余りにも反応が乏しいため

他の研究員からこの子は生まれ付き

発達に問題がありまともに育たないのでは

ないかと言われ、一度孤児院に入れて

様子を見るべきだと提案された。


だがイーダには予感があった。

「これはきっと『逸材』に違いない!」と。


孤児院での様子も逐一記録されていた。

言葉は遅かったが、生活に必要な知識はすぐに

理解していった。

言われた事、教えられた事をすぐさま理解

するだけでなく、なぜそれを言われたのか

何の為に相手はそれを言っているのかまで

考えている節があると推察もされていた。


イーダはゾクゾクした。

ついに自身の最高傑作ができるかもしれないと。


彼において作品に賢さは標準的にあればいい。

完全に感情を遮断して彼の言うことをその意図

まで理解し、全て言いなりになるロボットの

ような人間が欲しかったのだ。


しかし、完全に言いなりにさせる為には

恐怖で支配するしかなく、それは感情を無くす

こととは真逆のアプローチとなってしまう。


漸く理想に近い物を作れそうであっても

それで満足しなかった。

1から自分で作りたい。スペア用に量産したい

そんな欲求が沸き起こってくる。


その為にキラービーが育った環境を模そうと

したが、彼女は何も答えない。

覚えてないのか、答えたくないのかさえ

読めない。彼女の感情の遮断は完璧で

その奥を探ることは誰にもできなかった。


そうなると思い付く限りの虐待を加える

こととなる。

イーダが用意した『家』がどれほど悲惨な環境

であったかは、説明では説明しきれない。


過酷過ぎる環境は人の精神を壊す。


その家ではほとんどの子が精神に異常をきたした。

(イーダの言うところの『使えない』状態である)


辛うじて会話が可能で物を覚え、それを活かす

ことができたのは、ツリースパイダーのみであった。


イーダはツリースパイダーの出来に満足して

いなかった。しかし壮大な実験の果てに

成果がないわけにもいかなかった。


ツリースパイダーは情緒が安定しなかったため、

そのコントロールをこちら側でしてやらねば

ならなかった。

彼の苦しみが怒りや恨みに変わらぬように

主人に従うことの正しさと敬愛を叩きこんだ。


イーダにとって洗脳して支配することは

余りに簡単であったが、その手法は余り

好みではなかった。

洗脳は自主自立と相反する。

洗脳すると、それが解けないかの監視が

必要となる。

数が増えれば相互監視をさせればよいのだが、

彼は基本誰のことも信用していない。

彼の欲深さは『罪』などという言葉では

とても足りない。


そして結局のところ、イーダは

ツリースパイダーのことを持て余していたのだった。

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