第24話 蜂と蜘蛛(5)

「ウウウ…ウウウウ……」


言い表せない感情が渦巻き、

ツリースパイダーは呻いていた。


「ボクは…ボクは…キラービーのように

ならなきゃイケナイ。キラービーのように

おじ様の役に立たなきゃイケナイ。

ボクは…ボクは……キラービーが大嫌いダ…

なのに……」


「ボクはちゃんとやります。言うことをききます。

はい。ちゃんとできます。」


「あ、あ、アア……」


「おじ様…おじ様……

ボクを褒めて…お願い、ボクを褒めて…」


額からは大量の血がながれている。

ツリースパイダーは段々と言動も

怪しくなってきた。


「ボクは、ボクは……」


虚ろな目でラビを見つめた。

そしてハッとして意を決した。


「お前を殺しテ、おじ様に褒めてモラウ!!」


ツリースパイダーはナイフを構え、

再びラビに襲い掛かった。

同時に毒の糸も放ってくる。


ラビはツリースパイダーの機動から身を外しつつ

外套で相手の動きを遮った。

そしてそのままその腕を絡め取り、

ナイフを奪った。


そのまま背後を取ろうとしたが

ツリースパイダーはそれを交わし、

よろけるように後ずさり、壁まで後退した。


「私を殺したら『おじ様』は喜ぶか?

喜ぶのは『息子達』だろう?」


「ウッ…ウウウ……」


再びツリースパイダーは呻いた。


『ボクは勝てない……コイツに勝てない……

今までも一度だって何も敵わなかった……

おじ様はそれを見ても残念そうにもしなかった。

まるでそれが分かっていたかのように

薄笑いで僕を……』


ぼんやり焦点の合わない目でラビを見ていた


『勝てなければ死ぬ……僕は……』


その時、目の端にジルが映った。


『あの子は誰?僕の友達?

僕と…僕と一緒に死んでくれる…カナ?』


『一人ぼっちは嫌なんダ、君も一緒二……』


夢遊のような状態のツリースパイダーは

意識せず笑っていた。

そして最後の仕込みナイフをジルの頭上高くに

投げたのだった。


ジルの頭上には毒の塗られた蜘蛛の糸が

張ってあった。ナイフによって切られた

その糸がハラりとジルへ向かって垂れてゆく……


「チッ!この馬鹿が!」


ラビが悪態をつき、持っていたナイフを

ツリースパイダーの首筋に刺した。

と同時にジルの元へ飛び込んだ。


ジルを蜘蛛の糸から庇うように守り、

右腕で蜘蛛の糸を払った。




「ラビっ!ラビっ!」


堪らずジルは泣きながら名前を連呼した。


「ごめんなさい、私のせいでラビが

危ない目に……!」


「巻き込んだのは私の方だ。

ジルは謝らなくていい。」


そう優しく囁いてジルを縛っていた縄を

切ってやった。


そしてラビは右腕袖を肩から切り離した。


「えっ、どうして破いちゃうの?」


「奴の毒に触れた。この服は完全に浸透を

防ぐわけではない。」


外套ならばあらゆる液体の浸透も防げたが、

彼女の着用している服は身体の動きに合わせて

とてもしなやかに伸縮するが、汗などを

外に逃がす役割もある為、完全に防水な

わけではなかった。


「ウウゥ……キラービー…キラービー……」


首に致命傷を受けたツリースパイダーは

口から血を吐きもう動けなくなっていた。



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