第22話 蜂と蜘蛛(3)

街の中心街から外れた廃屋敷でジルは縛られ

寝かされていた。


とても古い洋館で玄関から広間へと広大な空間が

吹き抜けとなっていた。


「さーて、こんな子どもを攫ってみたけど

キラービーのヤツ来るかナア〜」


毒蜘蛛『ツリースパイダー』はそう言ってニヤニヤ

しながらジルを見つめた。


「何なのよアンタ!何でこんなことするの!?」


ジルは怒ってそう言い放った。


「だって君さあ、あのキラービーと仲良く

してたじゃナイ?あのキラービーとヨ?

アイツ本当は人間じゃないのヨ?

どんな時でも眉一つ動かさず人を殺し

まくって、何を言われても何の感情も反応も

示さなかったのヨ。それが……」


「それが今更何!?何で仲良く人間ゴッコを

してるワケ!?自分は人間らしく生きれる

とでも言いたいワケ!?

許せない!許せないヨ!!」


言葉と共にツリースパイダーは激昂した。

ジルはビックリして怯えた。

ラビに助けに来てほしいけど来てほしく

なかった。


『こんな危ない奴にラビが何かされたら嫌だ!

でもラビなら、ラビならこんな奴には

きっと負けない!』


きっと何時もならラビは負けない、

でももし自分の存在が足手まといになって

しまったら……

そう考えるととてつもなく辛く悲しくなった。


でもジルは泣かなかった。

自分はどうなってもいい。

ラビには無事でいてほしい。

そう願っていた。



「はー、来ないナア、来るわけないカア

アイツに人の心があるわけないもんナアー

どーしよっかナア。殺しちゃおっかナア。

どうやって殺そうかナア。」


ツリースパイダーはジルを見てニヤニヤ

して言った。


「それにしてもアンタも変な巡り合わせを

持っている娘ネ。

まさかアイツに会う前にはヘレと一緒にいた

なんてネ。」


「え、あなたオジさんを知ってるの?」


ジルはビックリした。


「随分前から追跡リストに載ってたんだヨ。

緊急度は低かったけどネ。まさかあんな国の

外れで子どもを助けてたナンテ……」


ツリースパイダーは面白くなさそうに口を

尖らせた。


「でももう死んじゃったヨ。僕ちゃんが見た時は

もう息も絶え絶えだっタ。足の怪我から菌が入った

んじゃないのかな?僕ちゃんが何を聞いても

『ジルはきっと大丈夫だ』しか言わないノ。」


『オジさん……』


「アイツが黒い影のような人物と接触していた。

のは分かっていたのに、結局何も聞き出せなかった

んだよネ……」


「デモ、アンタがジルネ!アイツ、アンタの

無事を願っていたのに残念ヨネ!」


ジルはヘレ=オジさんのことを思い出すと

このままこの蜘蛛男に殺されてしまうのが

悔しくて申し訳なかった。


「僕ちゃんねエ、2種類の毒を使うんだヨ

ジルちゃんはどっちがイイ?すぐ死ぬヤツと

ジワジワ死ぬヤツ。特別に選ばせてあげるヨ。」


ジルはツリースパイダーを睨みつけていたが、

目を瞑って考えて答えた。


「選ばせてくれるんだ。あなた、優しいね。」


ジルは嫌味のつもりだったが、

ツリースパイダーは喜んだ。


「優しい?そう?そうでショ?僕ちゃん

優しくてイイコナノ!そうだよ!僕ちゃん

本当はイイコなんだヨ!

ねえジルちゃん、キラービーなんかより

僕ちゃんと友達になろうヨ!そしたらジルちゃん

のこと、殺さないでいてあげるヨ!」 


『なんて変なやつなの……』


ラビはツリースパイダーのことが気持ち悪くて

仕方なかった。


『ラビとは大違い……』


とてもラビの元同僚とは思えなかった。


「ねえねえどうスル!?」


ツリースパイダーは嬉しそうに聞いてくる。

ジルはこんな状況でも自分のことより

ラビのことばかり気遣っていた。


「どうしてラビのこと殺そうとするの?」


「ラビ?キラービーのことラビって呼んでるノ?

何でそんな可愛い名前付けてあげたノ?

イイナイイナ、僕ちゃんにも可愛い名前付けてヨ

僕ちゃん『ツリースパイダー』っていうノ。

大切な『おじ様』が付けてくれたノ、

タランチュラの中でもとっても綺麗で神秘的

な蜘蛛なノヨ。素敵デショ?」


「名前を付けたらラビのこと殺さない?」


「どうしよっカナー?あっダメダメ、

殺してこいって言われたし、僕ちゃんも

アイツ嫌いだから殺したいんダヨ。」


ツリースパイダーは残念そうにそう答えた。


「何?そんなにアイツのことが好きナノ?

あんなに冷たくて暗くて怖くて嫌なヤツ

他にいないノニ……」


一瞬ツリースパイダーに嫉妬のような憎しみの

気持ちが新たに芽生えたが、

その時彼は何かに気付きハッとして振り返った。


そこにはラビがいた。


「相変わらず気配を消すのが上手な奴ネ!」


そう言うやいなや、

すぐさま上方へ飛び上がり臨戦態勢をとった。


『糸を半分も切られた!クソがっ!』


ツリースパイダーは忌々しさに怒り狂いそうに

なっていた。


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