第17話 出航前(3)

「父はワシアの中央警察署の署長室で

署長と一緒に亡くなっていた。

殺されたんだが、余りにもキレイに亡くなって

いてね、今でも『殺された』という

実感が湧かない時があるくらいなんだ。」


レオルはそこまで話した後

「ふうっ」と一息付いて、

少し疲れたのかジルの横に腰掛けた。


ジルは涙目で黙って話を聞いていた。


「17 年前、僕は子どもで何も分からなかった。

分かっていなかった。父を亡くしてからは

その悲しさと喪失に耐えながら残された家族で

暮らし続けた。」


「僕は父の死に納得がいかなくて、周りの人達に

どうして父が死んだのか尋ねて回ったが

皆一様に口を閉ざすか濁すばかりで、

答えてくれたとしても『この件について

知りたがるな!』と厳しく怒られるくらいだった。

そしてその事が母を悲しませるので

僕は真相を知ることを諦めるしかなかった。」


「でもある時…僕が16歳頃の時かな、

父の同僚だった人が僕を訪ねてきてくれた。

そして誰にも聞かれないように僕にだけ教えて

くれた。『父は死神に殺された』んだと。」


レオルはそこまで言うともうほとんど泣いて

いるようなジルの方を向き、そっと尋ねた。


「ジル、知っているかい?

この国において『死神』とは、国のトップに

所属し、その命令に従ってあらゆる政敵を

必ずこの世から消す暗殺者のことなんだ。」


レオルの声はとても優しかった。

怒りと悲しみが同時に訪れていても

とても冷静に受け止めている証拠かもしれない。


「まさか、ラビが犯人なの?」


震える声でジルは聞いた。


「まさか、僕が子どもの時の出来事だ。

ラビもまだ子どもだった筈だ、それに

死神は常に何人かいて入れ替わっていくらしい

僕はただ、父を殺した死神が誰なのか

もし知っていたら教えてほしいだけなんだ。」


「……君の父親が死神にやられたという

確かな根拠はあるのかい?」


「う、ん……父の同僚の言うところでは

外傷なくキレイな形ででもどこか不自然に

亡くなっているのは『死神がやった』という

メッセージだとか…今では違うのかもしれない

けど、当時はそうだったそうだ。

それにその署長は密かに反政府活動を支援

していて、父も署長の意見に賛同していた

らしい……」


「あの頃はワシアもとても活気があって

そんな活動や思想もあったらしい。

その事件の後、無抵抗を貫くと方針が決まり、

その代わり余り発展もしなくなったそうだ。」


「そうか……」


ラビは何か思案しているようだった。

やがて


「君の父親の名前は?署長の名前も分かるかい?」


レオルは父と署長の名前を答えた。


「何か知っていることはあるかい!?」


「そうだな……ワシア、17年前、警察署長、

犯行勢力……」


ラビは目を瞑り何かを思い出そうとしていたが


「分かるかどうか分からないな

似ている事例は山程ある。君の役には

立てないかもしれない。」


レオルは明らかに残念な表情を浮かべるわけには

いかず、無理に笑おうとして上手く行かない

表情になってしまったが、それでも精一杯

勢いよく答えた。


「ああ、いいんだ、そりゃそうだよな……

こんな偶々出会った相手に長年追いかけていた

謎を解いてもらおうなんて、

申し訳ない、忘れてほしい。」


レオルは心底申し訳なさそうに頭を下げた。

そして遠くを見つめ続けて言った。


「そろそろ船に向かおうか、

船の乗船が始まっているみたいだ。」

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