第16話 出航前(2)

翌朝。


マークはアワシの警察本部から事情の聞き取りに

来た警官達へ説明することになっていた。


レオルはそれに付き添い、説明の補助をする。

その為朝一でラビのところへ向かうことが

できなかった。


ようやくラビとジルが泊まっていた宿に

向かえたのは、朝食と昼食の間くらいの

時間だった。


レオルが着いた時は2人が宿から出てきた

ところであった。


「間に合った!……かな?」


レオルは2人に声を掛けた。


「あっ、昨日の警官さん、おはようございます。」


ジルはきちんと挨拶をした。

ラビは何とも面倒くさそうな雰囲気で

レオルを眺めた。


「船の出航までまだ時間がある、それまで

どこかへ行くのかい?」


「船の乗船券を買いにいくの。」


「そうか、でも乗船所は一刻も早くワシアへ

行きたい人達でごった返している。

今から行っても今日の便には乗れないだろう。」


「ええっ、そうなの?どうしようラビ……」


ジルは驚き困った顔をしたが、

レオルがニッコリして言った。


「でも大丈夫!先に、昨日の内にチケットを

押さえておいたから。恩人である君を優先的に

乗せないなんてことはないからね。」


「やったあ!良かったね、ラビ!

お兄さんありがとう!」


「どういたしまして。」


ラビは特に何も反応することなく

2人の会話を聞いていた。


「それで、なんだけど。」


「?どうしたの?」


「チケットに並ぶ時間も浮いたことだし、

その時間を僕に使わせてほしい。」


3人は乗船所近くの河沿いの公園へ場所を移した。

そこは広くて、乗船所の喧騒も遠くに見えるだけで

とても静かなところだった。



公園に着くと3人はベンチを探しながら

河沿いを歩いた。

歩きながらレオルは尋ね出した。


「ところで。」


「ラビ、このジルという子は君のことを

どこまで知っているんだい?」


「どこまで知るとは?」


「君が昔何をしていたか知られたくないのなら

この話を聞かせない方がいいかと思ってね。」


「昔って、ラビがホロウという名前で

死神だったっていうこと?」


「あと、もう一つ名前があったんだよね?」


それが何を意味するかも分からず、

ジルはニコニコとレオルに答えた。


「えっ、君、死神って……」


レオルは伺うようにラビを見たが

ラビの表情は何も変化しない。

良いのか悪いのかの判断もまるで付かない。


「ジル、君はこの国において『死神』が何を

意味するのか知っているのかい?」


「んー、すっごい前に読んだご本では

もうすぐ死んじゃう人のところに現れるって、

それで何するんだっけな…?」


ジルは昔話を思い出そうとしていた。


ラビは何も言わなかった。

それは『かまわない』を意味していると

レオルはとらえた。


深くはないがレオルは深呼吸をした。

そして空いていたベンチに荷物を置き、

ジルも座らせた。


ラビは多分座らないだろうと判断した。

彼女はいつもそうとは気付かないが周りを

警戒している。


それは訓練の成果かもしれないし、

それより前からの癖なのかもしれない……


「ラビ、君が『死神』なのかを確認したかった。

けれどまあ、そういうことだったんだね……」


ジルは知らないだろうが、この国で『死神』と

まともに話すなんてことはまず無いことであった。

緊張を隠すようにレオルはゆっくり言葉を探し

ながら話を続けた。


「僕は今から君達が向かうワシアで生まれ育った。

父は、父も警官だった。警官を務めるには

優しすぎるといつも母が心配しているような

人でね……。僕にもとても優しくて

すごく尊敬していて大好きな父だった。」


「あれは…僕が7歳くらいの時だった。

いつもは笑って行ってきますと出ていく父が

何日か前から笑わなくなっていた。

その日も笑わずに僕の頭を撫でて、

そして僕を抱きしめた後出ていった。」


「それが父を見た最後の日だった。」


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