第15話 出航前

マークはラビに言う。


「どうやって説明すればいい?

これらの事が全部俺の手腕で俺の手柄だなんて

どうやっても無理だ。絶対バレる。」


今回の作戦の功労者はどう考えてもラビであった。


行動班の誰もがラビが表彰されるべきだと

考えたが、ラビはそれを固辞した。


それどころか本人は関わっていないことにして

ほしいと頼んだ。


そうなると誰が作戦を指揮・指導したのか

という事になる。


そこで全てがマーク主任の手腕でということに

なった。


犯行の主犯を制圧したのも、錯乱して暴れたのが

新米警官の元友人ということもあって

口裏を合わせ、ラビは最初から関わっていない

というこで話を合わせた。


ラビは船に乗れればそれでよかったのだ。


「あったことをそのまま説明すればいいだろう。」


「俺がこんな作戦思いつくなんて、

信じてもらえるとは思えない……」


「君はあの現場へ行く時に、ワシアで一度

立て籠もり現場を見たことがあると呟いて

いたね。」


「え、いや、見たと言っても遠くから

チラッと見えただけで……」


「その時に見た特殊部隊の動きを思い出して

今回の作戦に繋げたと言えばいい。

どうせ誰も…真相など理解すまい。」


そう言ってラビはふんっと外を見た。


レオルは何となく、ラビが外を向くのは

会話を切りたいからかと感じた。


「主任、大丈夫ですよ、僕達も話を合わせます。

上手く乗り切れますよ。」


レオルは人を宥めるのが上手い。


自身の無さそうだったマークも段々と

安心していくようであった。


そうして穏やかで思いやりのあるように

みえるレオルであったが、

彼の内心は穏やかではなかった。


『これだけの事をほとんど考える間もなく

計画して指揮した。

犯行のリーダーの制圧にしても

あの時音も無く現れ、

一瞬の内に瞬殺されたと

取り押さえられた友人は供述したようだ。』


※その時はリーダーが殺されたと思ったらしい。


『この人はスパイなんかじゃない。

もっと恐ろしいものだ……』


だがレオルは怖れるわけにはいかなかった

自身の目的の為に。




やがてジルが預かり先から連れてこられた。


ジルは預かり先でも明るく気丈に振る舞って

いたらしいが、ラビを見付けると

涙目で駆け寄り、ラビにしがみつくと


「無事でよかった……!」


と泣き出した。


どうしていいかまるで分かっていないラビは

棒立ちでジルを見つめていた。


レオルはそっと近寄り、


『頭を撫でてあげるといいよ』


と囁いた。


ラビはその囁きに素直に従いジルの頭をそっと

撫でたのだった。


ジルは嬉しくて余計に泣き出したが、

すぐに落ち着きを取り戻し、泣き止んでから

2人は宿に向かって行った。


「なーんか、微笑ましいのか何だか

よく分からねえ2人だな。」


出ていった2人を見送ってマークはそう呟いた。


「そうですね。」


レオルも同意した。


『あんな小さな子があれほど懐くなんて』


それに今朝の行動……

結局彼女は誰も死なせずに事を済ませたのだ。


一連のことを見ても、誰もラビを

恐い人、危ない人とは思わないだろう。


レオルはまた自分の予感に迷いが生じ、

思い悩むのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る