第12話 救出作戦(4)

立て籠もり現場は見晴らしがよく、

日のある間は身を隠して近づくことが

できそうもない。


街灯は街の中に点在する程度で

現場周辺は、夜には真っ暗に

なるような場所だった。


警官達とラビ(以下行動班と記載)は

必要な準備を済ますと、夜まで休息を取ることに

した。


その夜は月が隠れ、身を潜めての行動に

うってつけであった。


「ラビさん。」


夜の出発前にレオルがラビに声をかけた。


「何か確認でも?」


「今回の作戦についてではないんですが……

すごく個人的な話で申し訳ないけど聞きたい

ことがあるんです。」


「………」


ラビは返事をせずレオルを見た。


「あなたは、その、諜報機関の関連で

働いていたということでいいのですか?」


「そうとも言えるし

そうでないとも言える。」


「ではあなたは……………!」


レオルは声が上擦った。

感情が高ぶり動悸がはげしくなる。


聞きたいことが山程あっても、

それの答えを聞いてしまったら

引き返せないこともある。


レオルは迷ってしまった。


ラビはレオルを見つめた、

苦手ながらも彼女は相手の感情を読む。 


本人にほぼ感情が無いため、他人の感情も

ほとんど分からないでいるが

そのため誰よりもそれについての学習を

させられてもいた。


「感情の高ぶりは……」


先にラビが口を開いた。


「冷静さを奪う。」


レオルはハッとした。


「失敗の許されない行動の前に

そのような状態は望ましくないが?」


ラビはいつも抑揚がなく、感情も感じさせない。

だが、言葉のチョイスからは

呆れているのかと思わせることもあった。


「え、あ、いや、その……」


レオルはやや焦った。

ラビとレオルは歳が近い。

2人とも20代半ば前といったところだった。


「焦る何かがあったとしても、

タイミングは考えた方がいい。」


ラビはそう言うと荷物の確認を始めた。


「う…あ、はい……

では後ほど、作戦が成功した暁に。」


レオルは頭を下げた。


気不味くなってその場を去ろうかと思ったが、

そのうちに他の者達が集まってきて

行動班のメンバーが揃った。


「では……行くか。」


マークが力無く皆に声を掛け、揃って出発する。


指示も計画も全てラビであったが、

マークがリーダーとなり当面の指揮は取る

こととなった。


ラビはとてもではないが、人々をまとめる

といった人柄ではない。

誰が言い出したわけではないが、

雰囲気と流れでそうなってしまったようである。


現場に向かう中でマークはラビに

そっと尋ねた。


「本当にこの作戦で大丈夫なんだよな?

こっち側みんな、やられたりしねえよな?」


マークは相当不安なようだ。

彼はこの中では年長者であり、そろそろ

ベテランの域に入る年齢ではあるが、

集団行動でのリーダーや責任者になったことが

なかったのである。

(いつでも頼りになるベテラン警官がいたのだが

今朝負傷してしまった。)


「この策のどこに不安と問題点があるのかを

提示されなければ、こちらも回答のしようがない。」


「や、その、大丈夫問題ないとさえ

言ってもらえれば…別にいいんだ……」


「すまないが、私には精神ケアや心理的支援の

スキルがない。自身の不安は自身で対応願おう。」


「う、うう……」


「しかし、この国においてはかつてから

殲滅戦や包囲戦などの知識・技術の情報管理が

徹底されていた。特殊施設を経ていない者が

それらを知らぬのは致し方のないことだ。」


「お、おう……?」


「主任。」


レオルがそっとマークに耳打ちした。


「多分、要するに、そんなに

気にするなということだと思いますよ。」


「そ、そうなのか?」


マークは呆気にとられそうになりながらも

威厳を保とうとしていた。


せめてもの年長者の意地である。


マークはふと、昔を思い出した。

彼は幼少期、ワシアで育った。

ワシアは常時平和であったが、一度だけ

人質を取った立て籠もりテロが起こったことがある。


マークはまだ子どもで、人質もまた数名の子ども

であった。

軍が取り囲み説得を試みたが交渉は進まなかった。


子ども心に『早くみんな助かってほしい』と

願っていた。


数日経ち、人質の健康状態の心配もピークに

達した頃、謎の集団が来て、軍が一斉に制圧に

動いた。


人質諸共全員が死亡した。


後にその集団が特殊工作部隊だと噂された。

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