第10話 救出作戦(2)

「それってお前、諜報機関のスパイだったって

ことじゃねえのか?」


マークは震える声でそう尋ねた。


「ワシアに潜入してスパイ活動をするために

船が必要なんだろ…?」


「スパイ活動か……、一体何の為に?」


ラビは逆に聞き返してきた。


「何の為って、そりゃどこかに情報を売るんだろ?」


「ほう、情報を売る?どこへ?」


「どこって…う、売れるとこならどこでもだ!」


「君は諜報機関が誰の命令で誰の為に

活動していたのか知らないのかい?

そして今さらこんな政情の中で彼らが金の為に

動くとでも?」


「い、いや、その……」


「そもそも君は今どんな勢力がどんな事情で

動いているのか把握しているのかい?

分かっていないのに私を疑ってーー」


「ま、待って、待って!」


言葉の途中でレオルが止めた。


「た、頼むから、マーク主任を煽らないでくれ…!」


マークは口をパクパクさせていた。


「煽る?煽るか……私は煽っていたのかな?」


「…うん、まあ、結構……」


レオルは苦笑いした。


他の若手警官達はマークをなだめて落ち着かせて

いた。


「あの、では、この街へは何しに?」


レオルは話を逸した。


「子どもを。」


「え?」


「今そこの影に隠れている10歳くらいの子どもを

ワシアの孤児院に届けるためだ。」


物陰に隠れていたジルが恐る恐る顔を出した。


「え?それではあの小さな子を助ける為に?」


「………」


ラビは答えなかったが、

その場の空気が一変した。


マークももうそれ以上の追求はしなかった。

そして作戦会議を行うこととなった。



長びく可能性と、巻き込めないということで

作戦が終わるまでジルは

1人の新米警官が、彼の家でその家族と

一緒に面倒を見ることとなった。


「ラビ、大丈夫なの?危険な事はない?」


「ない。何も。大丈夫だ。」


ラビはジルに何も迷わずそう答えた。


「本当?無理しないでね。」


「………」


ラビは『無理をしない』という言葉の意味が

分からず、首を傾げた。


「もう、大丈夫かな、ふふ。」


ジルは心配しながらも少し笑った。


レオルや他の者はその様子を見て、

何となくその二人の間に信頼関係があるように

感じた。


ジルが連れて行かれると、作戦会議が始まった。


もう1人の若い警官、ブルーノがラビに尋ねた。


「あのう、あなたの名前は…『ラビ』さんで

いいのですか?」


ラビはブルーノをしばらく見つめて、

それから目を逸らせて考えながら答えた。


「そうだな、それでいい。」


周りにいた者達は、いや、世界中の誰もが

ラビに名前が付いたことがラビにとって

どれほど特別な事か知らないでいた。


もしかしたら、特殊施設で出会った彼だけは

そのことに気付くかもしれない。


自分の中で今まで感じたことの無い感覚を

覚えながらもラビはそれを気にしないでいた。


『元諜報機関の関係者ならどうせ偽名だろうし

何をそんなに考えているのだろう。』 


と、その場にいた者達は思ったが

あえては問わず、皆彼女を『ラビ』と呼んだ。


「ラビさん、先ほどの小さな子に

『何も問題ない大丈夫』

と言ってましたけど、それは本当ですか?

それともあの子を安心させるために?」


ブルーノはとても不安そうにそう尋ねた。

彼は、彼だけではなく皆も本当は不安であった。


「安心させるため?」


ラビはまたその言葉が

どういう意味か分からず首を傾げた。


「い、いえ、違うならいいんです。」


ブルーノは笑って誤魔化した。


安心させるためではないなら、作戦に自信が

あるということになる。


それはとても頼もしかった。


「立てこもり犯の殲滅など、下準備を間違え

なければ失敗することはほとんどない。」


ラビは淡々とそう告げた。

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