第9話 救出作戦(1)

不意に現れた黒ずくめの小柄な不審者に

警官達は警戒した。


「何だお前は!?街の者じゃないな?」


年長の警官は銃を構えて尋ねた。


「特殊工作部隊ではそれほど難しい任務に

当たらない内容だ。まあ、立てこもり犯を

生け捕りとなると難易度は上がるが……」


ラビは相手が銃を構えてることなど

何の意味も無いと言う風に、飄々と意見を

述べた。


「余所者が偉そうに何を言いやがる、

関係ないやつはここから消えろ!」


突如現れた不気味な黒い影のような人物を

不審者と決め付けて、銃を構えた警官は

撃とうとした。


彼は元から相当苛立っていたのだろう。


「待って下さい!」


1人の若い警官がそれを止めに入った。


「マーク主任、我々には作戦がありません。

それにこの人は、もしかしたら特殊工作部隊の

生き残りなのかもしれないです。

なら話を聞くだけでも何か手が見つかるかも

しれません。」


「何だと!?」


マークは苛立たしげに若い警官を見たが、

若い警官は真剣な顔でマークに食い下がった。


マークは残りの若手や新米警官達を見渡したが、

皆止めに入った警官に同意しているようだった。


マークは銃を降ろした。


「くそっ……ワシアからの派遣のくせに!」


マークはそう吐き捨てた。


若い警官はラビの方に向き直り話し掛けた。


「すみません、私はワシアから派遣されて

この街の地域治安に務めているレオルと

言います。あなたは、その、何者なんですか?」


レオルはとても丁寧に尋ねた。


「何者か……」


「その、今、もしくはかつてしていた職業や

なぜこの街にきたのか、目的とかです。

あ、差し支えない範囲で。」


「差し支えない範囲じゃだめだろう、

何者かはっきりしねえやつに大事な判断や

作戦を任せるのか!?」


マークはちょくちょく絡んでくる。


「でもマーク主任、特殊工作部隊員は

基本素性を隠して働くのですよ。

そう簡単に何もかも話してくれるとは……」


「だーかーらー、それでこそ素性を明かして

やっとこっちも信頼できるってもんだろうが!」


『これだから若僧は甘くて嫌なんだよ。』


と言いたげだった。




「素性か……」


「すみません、総統暗殺以来、各地で内乱や内戦が

起こっていて、不審人物を街に入れるのは

最警戒項目なんです。」


その総統暗殺が自分の仕業だと

言うものでは無い事くらいはラビも分かっていた。


「特殊工作隊にいたんですか?」


「いや、そこには所属していない。

だが特殊工作隊がやるべき仕事内容やその手段は

ほぼ全て把握している。」


「それって、特殊施設を途中退所したとか…?」


「いや……、直接政府所属の仕事をしていた。

裏の仕事だ。内容を知ると君達にも今後

被害が出るかもしれないので知らない方がいい。」


警官達はザワついた。

今起こっている事とは別のとても危険な予感が

身を包んだからだ。


ラビは暗殺専門で基本的な指令も

ターゲットの暗殺のみであった。


偽りの情報で相手を籠絡したり、

素性を偽って相手の信頼を得るという

テクニックを情報としては知っていたが

とてもそれを行えそうにないと判断されていた。


本人もそれを自覚していた。

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