第3話 へレの理由

「ヘレ、私からも尋ねたいのたが……」


「君はなぜ孤児の面倒をみていたのだい?

機関から抜けてからずっとこのようなことを?」


「何だい、俺に興味があるのかよ。」


「答えたくなければ別にかまわないが。

だが君の理由が、今後この子を守る動機に

なるかもしれない。」


「へえ、そういうもんかね。

まああんたには……そういうもんなのか……」


『死神の心境なんて誰にも分からない。

探るだけ無駄ってもんだな。』


ヘレはもう探るのをやめた。


「俺はあそこにな、あの組織にいるのが

心底嫌になってな、最初は足を引っ張りあって

いても、一緒に仕事していりゃ仲間意識が

芽生えるもんさ。でもよ………

まあまあいい奴からどんどん死んでいくんだ。」


話始めるとへレの目から色が消えていった。


「元々人命なんて屁とも思っていねえところだ。

初めから犠牲者が出ることを想定した任務も

たくさんあった。」


「命を賭けてよ。命を賭けて、賭けて、

そんで仲間の死を見続けて、自分が死ぬまで

それが続くと思うともう、そこから逃げること

しか考えられなくなって……」


「んでこの様よ。

逃げてる時にな、俺の命を救ってくれた人がいてな

そいつが内戦が起きた後、

孤児たちの世話をしていたが

つまらねえ小競り合いに巻き込まれて死んじまって

…………何となく恩返しじゃねえけどな

子ども等を見捨てるわけにもいかなくてよ。」


そう言ってヘレはジルを見つめた。

ヘレの目はいつもの目の色に戻っていた。


「俺はどうせ禄なことをしてこなかったから

どうなろうがどうでもいいが……

それでも若い命は助けてやりたい。

この子で最後なんだ。頼まれてくれ。」


「分かった。引き受けよう。」


ラビはそうあっさり返事をした。




大体のあらましを話し、

それでもラビは表情一つ変えなかったが

ヘレはもうラビを疑っていなかった。


「それじゃあオジさん……」


「ああ、ジル、どうか無事でな……」


お互いに名残惜しさだけを残して、

ジルはラビと共にそこを去っていった。


『よかった。やっと肩の荷が降りた。』


ヘレは満足そうに酒を飲んだ。



機関に所属し、総統政府や組織の為に汚い仕事も

多くさせられてきた。

自分で選んで進んでいた道だったが、

残るものは虚しさと……

ただ道具のようにいいように使われ続けた

悔しさだけだった。


「しかしーーー」


己らの保身の為だけに

このような使い捨ての工作員を多く育て、

隣国との駆け引きや脅威の排除とともに

国内の反対勢力を徹底的に抑え込んでいた

総統政府が一晩で壊滅するなど、

三年経った今でも信じられなかった。


「できれば俺がやってやりたかったな……」


独裁的で恐怖で人を縛る総統政府のやり方を

憎む者は少なくなかった。


ヘレも反政府勢力を集め機会を狙っていたが

追われる身では満足に活動できないでいた。


しかし彼は総統政府そのものよりも

恨んでいる者がいた。


「あの糞野郎をブチ殺してやりたかったぜ……」


ヘレは工作部隊の最高責任者の憎い顔を

思い浮かべた。


「涼しい顔して俺らを玩具のように

実験道具のように扱いやがって。」


ヘレはイーダが生きているのか死んでいるのか

知らなかった。


「精々無様に死んでりゃいいのにな……」


ヘレはそれを成し遂げた者に

最後の希望を託したことを知らないまま

酒を呑んで二人が去った後を見つめるのだった。






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