第32話

「いたっ!」

突如、強い衝撃を受け、狭いコックピット内に鈍い音がする。XJL-9SD、フィオレンティーナ・ディザイアのコックピット内に居た女性、由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージは目の前のコンソールに思いっきり頭をぶつけた。その瞬間、私の、由華音としての記憶が蘇る。

「私は、いったい…」

いつの間にか私はフィオレンティーナに乗っていた。あの時、捕まって怪しい薬を射たれてから記憶が曖昧になって上手く思い出せない。

唯一、思い出せたのは何かの機体に乗ってフィオレンティーナと戦い、雛子と殴りあった微かな記憶のみ。そして、瑞穂として行動してた一部の記憶。なぜ、瑞穂の時の記憶があるのが不思議だが、今はそんな事考えている場合では無い。

「大丈夫!?」

私は必死に今の状況を整理する。今、フィオレンティーナに乗っており、敵勢力が接近してるとの事。そして、イラストリアスにミサイルが直撃したかもとの事。

「瑞穂ちゃん?」

上から声がしたので顔を上げます。そこにはリーザさんがいました。

「…大丈夫です、リーザさん」

「さ、早く避難を…」

リーザさんはまだ、私を瑞穂と思っているようです。ここで、逃げる事も出来ますが、大切な仲間を守るため、私は決心します。

「いえ、行きます。ヴァンキッシュ少将」

「え?由華音?記憶が戻ったの?」

「心配かけました。もう大丈夫です」

「ふふ、それじゃ、復活したとこを私に見せて」

「了解!雛子!行くよ!」

「了解です!」

雛子が乗り込むのを確認すると、フィオレンティーナのハッチを閉め、ブリッジへと繋げる。

[こちら、フェルテ、…えーっと、瑞穂さん?]

「いえ、由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージです」

[ヴぁ、ヴァンテージ大佐!失礼しました!]

「フェルテさん、皆に伝えて。私が帰ってきたと」

[了解です!ヴァンテージ大佐!]

手早くフィオレンティーナを起動させると、発艦準備が整います。

[おかえりなさい!ヴァンテージ大佐!付いていきます!]

「デヴィット!言ったからには死ぬ気で来なさい!」

[了解!大佐!]

[ヴァンテージ大佐、発艦準備、整いました]

「ありがと、じゃ、行ってきます!」

[大佐、行ってらっしゃい]

スロットル全開にし、最大推力状態リヒートすると、カタパルトが作動する。

「なんか、久し振りね、この感覚」

上空に出ると、既に基地の部隊と無数の無人機が交戦していました。

[ヴァンテージ大佐、現在、湾内部に大型機の反応があります。動いてはいませんが、気をつけてください]

「分かったわ。えーっと、援護に適した人は…ペスカロロさんとデヴィットさんはエレメントを組んで私を後方から援護、ボーセルさん、私とエレメントを組みなさい!それ以外の者はフォリオの防衛、アヤの指示にしたがって!」

[承知しました!大佐]

[了解!大佐!]

「雛子!周囲の警戒をお願い!ボーセルさん!あなたの腕を見せなさい!突っ込みわよ!」

「了解です!お姉さま!」

[おう!死ぬ気で見せてやるぜ!大佐!]

「いや、死んでもらっては困る…」

私とボーセルのアタッカーは無人機の軍勢に突っ込み、すれ違い様に四機、切り飛ばすと、周囲にいた数機の無人機を後方の二機が撃ち落とします。

そして、私達はそのままの勢いで数十機撃墜し、押されぎみだった防衛線を押す返すと一旦、補給の為にイラストリアスへ帰還します。

「流石ね、ボーセルさん」

「大佐も腕が落ちていないようだな!」

「当然よ!他の者もご苦労様!」

現在、食堂には、機動兵器のパイロットの皆さんと休憩中です。イラストリアスの防衛してた者も含めて、被弾した機体はいない。

これは、私が不在の間にアヤが特訓の賜物だと同時に、あのラストフィート姉妹がイラストリアスの制御をし、防衛力が上がっているのを感じる。それにしても何だか皆からの視線を感じる。

「どうしたの?皆、私を見て」

すると、少しざわつき始めました。誰が行くか、話し合っているようだ。そして、スイハちゃんとロジェちゃんの二人がやってきた。

「あのあの!ヴァンテージ大佐!」

「はいはい?」

「ヴァンテージ大佐、その、髪が…半分近く白くなっていまして」

「え?まじで?」

「はい…」

そう言えば、最後に染めたのは随分前だった気がします。長さは変わっていないのでリーザさんが私の行きつけの理髪店を教えて、一緒に行っている。その時に染めてくれてもよかったのだが…

「誰か、鏡持ってない?」

すると、ロジェちゃんが恐る恐る多分私物の可愛いデザインの手鏡を手渡してきた。鏡を覗き込むと、スイハちゃんの言うとおり、半分近くが白髪になっている。それよりも黒のヘアバンドが気になった。

「うわ、ほんとだ。それに、このヘアバンドは?」

「そ、それは、ヴァンキッシュ大尉がヴァンテージ大佐と瑞穂さんと、区別しやすいようにと…」

「成る程ね」

自分で言うのも何だけど、似合ってるし、可愛いし、このまま着けていよう。髪は、落ち着いたら染める事に。そう考えていたら、食堂の扉が開き、アヤがやってきた。

「ヴァンテージさん、機体の整備と補給が終了しました」

「アヤ!何だか分からないけど久し振り!」

何だか嬉しくて、つい、抱きつきます。

「ヴぁ、ヴァンテージさん…強く…抱き締めないで…ください…傷口が…」

「わわ!ごめん、え?誰にやられたの?」

「えっと…」

何故かアヤが目を反らす。

「何でそっぽ向くの?」

「そ、それは…」

誰か知っているかと、食堂を見渡すが、全員顔を合わせません。

「何で全員、目を反らすの?」

まぁ、おいおい分かるとして、補給が終わったようなので、出撃します。

「皆!行くよー!」

「「了解!」」

私は再び、フィオレンティーナに乗り込み、発艦する。

[ヴァンテージ大佐、例の大型機の反応ですが、動きがありました。ゆっくりとこちらに向かってきてます]

「分かったわ。各員、私達で食い止めるよ!」

「「了解!」」

[なお、大型機はラツィオ製の反応をしています]

「ラツィオにそんな大型の機体なんてあったっけ?」

私の記憶では、そんな物はなかったハズ。

[由華音、あなたはあんまり記憶に無いかもしれないけど、あなたが最初に乗って戦闘した機体、マクミリスティーナが今の機体より大型よ]

「え?」

そう言われると、視点がフィオレンティーナより高かった気がする。

「じゃあ、そのマクミリスティーナを回収して使っているって事?」

[その可能性は高いわね]

マクミリスティーナのスペックは知らないけど、そんな旧式の機体で何が出来ると言うのか。

「皆!油断せずに行くよ!」

「「了解!」」

全機出撃し、大型機の反応の有るとこに向かいます。

「えっと、フォーメーションは…」

遠距離はスイハ、スイハの護衛に仲良しのロジェに任せて、私とボーセルは接近戦をして、注意を引く。デヴィットには、他の人達を引き連れて死角から行ってもらいます。他には上空からガンシップで援護射撃をしてもらいます。

「スイハちゃんは遠くから援護、ロジェちゃんはスイハちゃんの護衛、デヴィットは死角からお願い!他の者はデヴィットに付いて行って!ボーセルさん、付いてきて!」

[[了解!]]

私はスロットルを踏み込み、最大推進状態リヒートにして先頭を飛ぶ。まぁ、フィオレンティーナの出力と量産機の出力が違いますのでボーセルは徐々に遅れていきますが。

そして、表れたのは、大型のグレーの機体だった。

「あれは…」

かつて私が乗って一方的に敵を撃破し、逃げ惑う敵兵士を蹂躙し、拡散榴弾砲でレジスタンスごと村を火の海にした機体の記憶が甦る。

「マクミリスティーナ、また会ったね」

私が思い出に浸る時間も無く、大型機から無数のミサイルが発射されました。

「当たったら3ヶ月減給よ!」

私の言葉が効いたのか、各機、避けたりライフルで撃ち落としている。私もガトリングでミサイルを撃ち落とし、逃げ場を確保する

大型機がミサイルを撃ち尽くしたのか、脚部のパーツを切り離す。

「ミサイルは弾切れのようね」

そして、大型機がゆっくりと動き、肩、腰から計8本のガトリングが現れる。

「そう簡単には行かないよねー。ボーセルさん!一旦離れるよ!」

ガトリングが回りだすと、私とボーセルは急いで離れる。

ガトリングが一斉に火を吹き、無数の弾丸で迂闊に近づけない。

「この弾幕じゃ、近づけない…」

別行動のデヴィット部隊も強烈な弾幕により、攻めあぐねている。

「あれを破壊するしか…」

ライフルを撃つが、弾幕により、狙いが定まらず、有効なダメージを与えられてない感じがする。

「弾切れを待つしか無いのかな」

その時、私の後方から飛んで来た弾丸がガトリングを破壊する。

「え?」

続けて飛んで来た弾丸がガトリングを次々と破壊していく。

[ヴァンテージ大佐!援護します!]

「その声は、スイハちゃん!」

レーダーを確認すると、スイハは私の後方、約30Km辺りにある島からガトリングをピンポイントで狙い撃っている。

「スイハちゃん、新兵とは思えない腕前ね」

[えっと、その、私、撃墜しようと、すると、手が震えてしまって、だから、その、撤退してくれるように、武装ばっかり狙ってました]

そう言えば、スイハ機は出撃前に好きな武装を選ばせたら長距離射程の大型キャノンを選んでた気がする。でも、此方から目標の座標を送ってないのにどうやって索敵したのか。

それは後で聞くとして今は目の前の目標に専念します。

「見た感じ、武装はもう無さそうね!」

私は最大推進状態リヒートにし、大型機に接近する。すると、大型機の両腕から、砲身が現れると、此方に向かって弾丸を発射する。

「…!」

私は回避しますが、よく見ると狙いはフィオレンティーナでは無く、スイハのようだ。

「っ!スイハちゃん!避けて!」

[え?きゃああ!]

「スイハちゃん!よくも!」

私は怒りに任せて、突っ込み、腕の砲身を切り落とす。反対側もボーセルさんが切り落としました。

私はそのまま背後に回り、腕を切り落とそうとしたが、突如、背中と腰のパーツが変形し、腕が出現する。

「っ!お姉さま避けて!」

「隠し腕!?」

突然表れた隠し腕に対処出来ず、フィオレンティーナの右足を捕まれました。

「しまった!」

切り落とそうにも、振り回されて狙いが定まらない。部隊の皆も、私を助けようと隠し腕を撃っていますが、装甲が固いのか、有効なダメージを与えられていない。そして、遂にフィオレンティーナの足が千切れ、海に叩き付けられる。

「いたた…」

「さっきの攻撃でお姉さま、出力が半減しました…」

幸い、機体に大きなダメージは無いが、ジェネレータを一つ失った事で出力が半減する。

少ない出力で姿勢を整え、海底に沈む前にスラスターを吹かし、海上へと出る。

皆は戦闘していましたが、ダメージが入っている様子は無く、更に隠し腕が増えて更に攻めあぐねていました。

相手の装甲が硬く、射撃武器が通用しない上に接近すると、6本の腕に捕まってしまう。

「どうするかな…エネルギー切れを待とうかな」

下半身は海に沈んでいるので、破壊するのは厳しい。

[ヴァンテージ大佐、解析は完了しました。大型機の排熱量を計測した結果、原子力によるエネルギー供給をしているようです]

「えぇ…」

それでは、エネルギー切れさせる戦法は通じない。それに、迂闊に攻撃し、原子炉を爆発させたら、被害が計り知れない。

[ヴァンテージ大佐!このままじゃじり貧だ!あたしが腕を切り落とす!]

「ボーセルさん!?」

私が制止する間も無く、ボーセルさんは背後から突っ込んで行き、素早い回避行動で避けると、左腰の隠し腕一本を装甲の薄い関節から肘を切り落とす。

「ボーセルさん、すごいです!」

しかし、右の掌から出たワイヤーに捕まる。

「今、助ける!」

隊の皆も私の考えを読んだのか、援護射撃をする。そして、ワイヤーを切ろうとした時、高圧電流が流れる。

「ボーセルさん!?」

暫く電流が流れた後、ボーセルさんの機体は落下していく。私は慌てて追いかけて、機体の手を掴む。

「ボーセルさん、大丈夫?」

応答がありません、機体が故障してしまったのか。ボーセルさんを僚機に任せ、私は大型機に立ち向かう。

「スイハちゃんに続いてボーセルさんまでも、皆下がって!こいつは許せない!」

急上昇し、右腕を叩き切ると、飛んで来た左腕のワイヤーを避け、頭部に誘導ビーコンを付ける。上空からガンシップの180ミリ砲が放たれ、大型機の頭部に直撃、動きが鈍くなった所にロングブレイドを刺す。

[さすがね、由華音。私をここまで追い詰めるとは。でも、エミーラは簡単にはやられないわよ]

「通信!エミーラから!?」

すると、大型機の背中のパーツが外れ、フィオレンティーナと同等のサイズの機体が現れました。

[さぁ、私が作る、平和の礎となりなさい!]

エミーラが急接近し、手にしたブレードを振り下ろしてくる。私は慌てて、右手のショートブレイドで受けとめる。

「何故、平和の為だからって何故戦うの!?戦わないという道は無いの!?」

[話し合った所で全ての人が私の意見を聞いてくれると思っているの?]

「そ、それは…」

[そうじゃないでしょ?話し合いで平和になったら武器も兵器なんていらないのよ。人は他人の意見が気にくわないから暴力を振るい、戦い、殺し合いをするのよ]

私は、エミーラのブレードを振り払い、左手のライフルを撃つ。エミーラにはすぐに避けられるが、私はスラスターを吹かして距離をとる。

「でも、話を聞いてくれる人だっているよ!」

[戦争はね、正義と正義のぶつかりあいなのよ。対話では解決しない、永遠にね!]

エミーラがライフルを撃ち、フィオレンティーナの頭部に当たり、視界が一部消える。

「永遠じゃない!時間をかければきっと…」

[そんな時間が何処にあるの?人間の時間は有限よ。いずれ人は死ぬ。死ぬ前に自分の正義を示すのよ。そして、自分が正しいと思いながら死んでいく]

「そんなこと…」

[かつての貴方もそうだったんじゃないの?上の命令に疑いもなく従い、敵と教えられた人間を殺し、抵抗する街を破壊し、そして制圧する。貴方はどうなの?違わないの?]

「そ、それは…」

[否定しないって事は事実ってことでしょ。貴方は貴方の信じる正義を振りかざしていたって事よ、暴力と言う名の正義をね!]

「くっ!」

私は言い返せず、黙ってしまう。そして、エミーラがライフルを向けてくる。

[分かったでしょ?これが人間の本性よ。自分以外の意見は認めない、他人の意見は間違ってる、自分は正しい事をしている。くだらない議論するぐらいなら、私は、私の意見に従わない者は全て消し去る。そして、同じ考えを持つ者同士が集まれば不要な議論も、争いも無くなる。これが私が作る平和よ!]

「そんな、独裁者みたいな考えを!」

[独裁者に従っている人々は皆、不幸に見える?]

「それは…」

[そうじゃないでしょ?自分の考えを他人に押し付けるのは、圧力と言う名の暴力よ]

「それでも!私は、いずれ分かり合えると思っている!時間がかかろうとも!だから!分かり合う事から逃げないで!」

エミーラがライフルを撃つ瞬間、飛んで来た砲弾がライフルに当たります。

[その通りです!ヴァンテージ大佐!]

「スイハちゃん!?」

[えとえと、ヴァンテージ大佐、私も同じ意見です!]

「ロジェちゃんまで!二人共無事だったのね!」

[ロジェが守ってくれました]

[でもでも、機体は大破しちゃいましたけど…]

「機体なんて消耗品と思えば問題無いよ、二人が無事ならそれだけでいいわ」

[感動の再会は終わったかしら?]

「私はもう迷わない。私は、暴力と言われても、私の信じる正義を貫く!」

[援護します!ヴァンテージ大佐!]

[わ、私はここから、お、応援してます、ヴァンテージ大佐]

[そう、なら貴方の正義を私に見せなさい!]

「望む所だ!」

「リミッター解除!お姉さま、限界時間は10分です!」

エミーラと対等に勝負する為に、フィオレンティーナのリミッターを解除し、ジェネレータ出力を上げます。出力は二個ある時と同等になりましたが、無理をしている状態なので、早期に決着をつけなければなりません。

限界時間が過ぎたら出力が低下し、こちらが不利になってしまう。

「フィオ、少しの間、頑張ってね」

私がそう、呟くと、瑞穂が頷いた気がしました。急接近してきたエミーラのミドルブレイドを受け止め、弾き飛ばすと、そのまま、ブレイドを持ったエミーラの右腕を切り、続けざまに頭部を蹴り飛ばす。エミーラは錐揉状態になりながらも、もう左腕のライフルを撃ってきた。まさかの状態で撃ってきましたので私は避けれず、右腕に当たりライフルと共に右腕が落ちていく。

「あの状態で撃ってくるなんて」

アルグの過激派代表は伊達じゃないようだ。

[やるじゃない、でも、これはどうかな?エヴォーラ!起きなさい!]

すると、停止していた大型機、エヴォーラが動きだし、左手のワイヤーを射出、フィオレンティーナの左腕を絡めとります。

「くっ!」

「お姉さま!」

続いて右腰の隠し腕から射出されたワイヤーが左足を絡めとります。

「しまった!」

[ふふふ、捕まえた]

高圧電流が流れ、モニターがショートしていく。そして、フィオレンティーナの電源が切れた。

「まずい、早く電源入れなきゃ!」

しかし、パワースイッチを押しても反応がありません。

「駄目です、完全にシステムがダウンしました」

「フィオ?フィオったら!動いてよ!っ!何!?」

真っ暗な中、突如引っ張られる感触があります。そして、激しく揺れた後、引っ張られる感触が無くなりました。

「どうなったの?」

「わかりません、おそらく大型に捕まったかも…」

電源が入らず、モニターが映らない為、状況がわかりません。

「私には、守りたい仲間がいるの!その為にはフィオの力が必要なの!お願いだから動いてよ、フィオ…助けて…瑞穂…」

私の願いが届いたのかモニターの1つが点灯しました。


"由華音、貴方の願い聞こえた、私も手伝うよ"


「瑞穂!?でもどうするの?」


"私にいい考えがあるの"


すると私の視界が変わり、外の様子が映ります。目を擦ろうとしましたが、右腕が動きません。

「え?どういう事?それに腕が動かない」

「………………!」


雛子が何か喋ってるようだが上手く聞き取れない。


"今、由華音は私を通してフィオと一体化してる。雛子ちゃんには私から伝えておくね"


「そう言う事ね、分かったわ」

私は辺りを見回して状況を理解します。

「油断しているのかしら?ワイヤーが外れてる。今は、腕一本で吊るされてる状態、上手くすれば…でもスラスターはどうすれば…」


"空を飛ぶイメージをすればいいよ"


「成る程、って私、空飛んだこと無いんですけど!」


"私にも出来たんだから、由華音なら出来るよ"


「えぇ…」


"由華音って意外と臆病なのね"


「む」

瑞穂にバカにされてる気がする。ならばやってやろうじゃない。私はスラスターを吹かすイメージをするとフィオレンティーナは動きだす。そして、左腕を軸にして回転し、狙いを定めると、腹部のビーム砲でエヴォーラの左腕を破壊する。

「凄い、思い通りに動く」

エヴォーラの左腕を振り払うと、上昇し、頭部に刺さっているロングブレイドを回収する。

[あれを受けても、まだ動けるのね]

「そうよ、私と、瑞穂フィオを、舐めないでよね!」

[でも、これはどうかしら?]

エミーラの周囲に大量の無人機が集まってきます。

「それでも、私は諦めない!」

[そうですよ!ヴァンテージ大佐は1人ではありません!]

「スイハちゃん?」

驚いていると私の背後から弾丸が飛んできて無人機を数機撃墜します。そしてアルトゥーラが来ました。

[そうだぜ!ヴァンテール大佐!あたし達がいるじゃねぇか!]

「ボーセルさん!?大丈夫なの!?その機体は!?」

[あぁ、かすり傷程度だ!あんなの!機体は大破しちまったからアブレイズの姉貴が貸してくれたぜ!]

[ヴァンテージ大佐!無人機は我々に任せてください!各員ヴァンテージ大佐が集中出来るよう無人機は此方で引き付けるぞ!]

[デヴィットに命令されるのは癪だが、ヴァンテージ大佐の為に戦うぜ!]

[ボーセル少佐、チームワークを乱すなよ]

[わーってるよ!]

「もう、二人共仲良く…」

同じ階級だからしょうがないけど。

[ゆかちゃーん!私達も忘れないでねー!]

[由華音さん!援護します!]

暫く寝込んでいたサリナも復活したようだ。

[私の部隊と、貴方の部隊、どっちが勝つのかしらね?]

「数が多いだけの的に私達は負けない!行くよ!皆!」

[[了解!]]

ロングブレイドを構え、エミーラに接近すると、立ちはだかった無人機二機を切り飛ばし、エミーラに向かってロングブレイドを振り下ろす。エミーラは避けますが、私はそのまま振り上げ、左脚を切り落とす。

[くっ!反応が早い!]

続けざまに左腕を肘から切断する。

エミーラが後退すると、無人機が数機割り込むので、射線を避けながら全て切り飛ばすと、エミーラを追い詰める。

「終わりよ!もう抵抗はやめて」

既にエミーラの周囲にいた無人機は全て仲間が撃墜しました。

[そうね…]

「じゃあ、私達と…」

[でも、私は、貴方達と分かりあう気はないわ]

「どうして…」

その時、イラストリアスから通信が入ります。

[ヴァンテージ大佐!至急撤退してください!大型機から高熱反応があり、爆発の危険があります!]

「なんですって!?」

こんな所で爆発されたら被害が甚大となってしまう。何とか止めなければ。

「あなた!早く止めなさいよ!」

[ふふふ、もう無理よ。エヴォーラは私の手を離れた。もう私では止められない…]

「…こうなったら!」

私はエヴォーラの胸部に近づき、装甲を切り落とす。

[ヴァンテージ大佐!何をする気だ!]

「原子炉を被害の少ない所で爆発させる!」

[無茶だ!ヴァンテージ大佐!]

「それでも、誰かがやらないと!」

[何もヴァンテージ大佐が犠牲にならなくても!私が!]

ロングブレイドを投げ捨てるとエヴォーラから原子炉を取り出し、沖に向けて全力で飛ぶ。その後をアルトゥーラが付いてきている。

「ボーセルさん、付いてきては駄目!巻き込まれるよ!」

[それでも!大佐が心配なんだ!]

「ボーセル少佐!撤退しなさい!」

[断る!ヴァンテージ大佐を独りにはさせません!]

私は少しでも遠くに行こうとしましたが、突如、フィオレンティーナが止まり、私の意識が自分の体に戻る。そして、フィオレンティーナがコックピットブロックを切り離した。


"ごめん"


「フィオ!?」

コックピットブロックが着水する前にアルトゥーラが回収してくれましたのか、衝撃は無かった。


"ここからは、私一人で行く。由華音は私の分まで生きて"


「共に生きるって約束したじゃない!瑞穂!私を置いていかないで!私を一人にしないで!」

私は外に出ようと、コックピットのハッチをひたすら蹴る。


"由華音には、生きていてほしい。貴方が死んだら多くの仲間が悲しむ。それは私としても本望じゃない。…私と共に生きるって言ってくれた事、嬉しかったよ。さよなら、由華音、私の大切な人"


やっとの思いでコックピットブロックのハッチを蹴り破ると、フィオレンティーナはこっちを見て、頷くと沖合いに向かって飛んでいく。

「私、帰ってくると信じてるから!ずっと待ってるから!必ず帰ってきなさいよ!飛白かすり瑞穂!これは命令よ!」

私はフィオレンティーナが見えなくなるまで見送る。

「ヴァンテージ大佐、ここから離れましょう。被爆してしまいます」

「…………」

「ヴァンテージ大佐?」

「…そうね、瑞穂の犠牲を無駄にしないためにも」

アルトゥーラが基地に向かって飛んでいる最中、背後で大きな水柱が起こりました。

「フィオ…」

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