第2話 キャラメイク

 現在の時刻は23時57分。つまり、あと3分でリリースということだ。意外なことに、胸が高鳴っている。それだけこのゲームが楽しみだ、ということなのだろう。思っている何倍も。


「っと、そろそろか。それじゃ、これをつけて……」


 そう言いながら近くにおいていた初期設定済みのヘッドギアを被ってベッドの上に横になる。

 説明書に書いてあったのだが、脳の電流を読み取ったり脳に信号を送ったりで人によっては意識せず体が動くことがあるから柔らかいものの上で使うように、とのことだった。


「よし、行こう! ダイヴ!」


 目を瞑り、電子の世界へと潜るための合言葉を口にしてフルダイヴを果たす。

 再び目を開けると、そこは真っ白でただただ何もない空間が広がっていた。よく分からず困惑していると、目の前にボン! と音を鳴らして妖精のような姿の手のひらサイズの生物が現れる。


「はろー! 私はBraid Sorcerer Online、略してBSOの案内役のベル! 旅人のみんなのお手伝いをするよー!」


 元気いっぱいに話すベルは、次に指をパチンと鳴らしてウィンドウを開いてこちらに渡してくる。


「じゃあまずは君のこっちの世界での名前を教えてね!」


 ウィンドウには名前欄など、色々なところが空白になっている。多分だけど、僕が答えると徐々に埋まっていくという感じなのだろう。


「名前、か……」


 さすがに本名……という訳にはいかない。本名をもじる? ありかも……えーっと、常闇とこやみ神影みかげだから……ダーク、なんてのは安直か。うーん、じゃあ……


「ファントム、なんてどうだろう」

「ファントムね! いい名前じゃない!」


 呟くと、すぐにウィンドウへと名前が刻まれる。これで、僕はこの世界では常闇神影ではない。ファントムだ。


「じゃあ〜次は、この中から1つ初級職を選んでね!」


 新たにウィンドウが出てくる。そこには剣士や魔法使い、狩人などの戦闘系と薬師や鍛冶師、運搬者などの非戦闘系の職業がずらっと並んでいる。


「これは、もう決めてあるんだ」


 周斗と話をしていたとき。こういったゲームをよくしてきた周斗は僕に色々教えてくれた。その時にそれがあるなら絶対そうするって決めていたものがある。


「うん、初級職は【剣士】だね!」


 ベルの言葉と共にウィンドウが更新され、職業一覧を表示していたウィンドウは消えた。


「じゃあ次~。スキルを三つ選んでね! コモンスキルとレアスキルの中から選べるけど、レアスキルは最大一つまで。全部コモンスキルでもいいよ~」


 僕が剣士を選ぶにあたって、どういった効果のスキルがいいかというのも大体は頭に入れてきている。問題はそれがあるかどうかだけど――


「あった。これと、これと、これだな」


 選んだスキルは【加速】と【魔力操作】と【鑑定】。【鑑定】がレアスキルだな。剣をメインに補助に魔法使うって考えたらこんな感じになった。【鑑定】は……薬草とか見分けれるかな、って。これ以外にそれっぽいのはなかったから。


「決まったぞ」

「じゃあ次だね! 結構順調だけど、次は悩むと思うよ〜? えいっ!」


 新たに出てきたウィンドウに書かれていた文字はステータス。よく見ると、10個の項目と下には濃くはっきりとした字で30と表記がある。


「これはね〜BSOの世界でのステータス、それがどう伸びていくかという資質を設定してもらうよ! 下に30って書いてあるでしょ? それが割り振れる総数ってわけ! それよりも少なくはできるけど不利になるし、多くは絶対に出来ないよ!」


 ……よくわからない。ステータスがどう伸びていくかの資質? うーん、いや、でもちょっと周斗に教えてもらったからなんとなくならわかりそう。

 STRが攻撃力とかを表していて、DEFが防御力。AGIは移動速度なんかでINTは魔法とかの攻撃力、MNDは魔法バージョンのDEFって感じ。DEXは器用さとかでLUKは運。HPは体力でMPは魔法を打つためのエネルギーのようなもの。SPは……あれかな、MPのスキルを使うときのやつって感じ。


「はーいその認識であってるよ!!」

「うわっ!!」


 えっ!? 今口に出てた? 出てないよね?


「ふっふっふ、私レベルともなると心程度よゆーで読めるのだ!!」


 そ、そうなんだ……そんな技術が用意できるBSOの会社ってなんなんだ?

 ……まあ、それはゲームを楽しむには今のところ不必要な考えか。


「はーい、じゃあ割り振っちゃってー!」


 うーん……剣士系で行くって決めたから、STRとAGI寄りでつくっときたいかなぁ。えーと……あ、HPとMPとSPにはなにも振らなくても最低値がある程度保証されてるって書いてる。んと、てことはそのほかは一切振らなかったら数値が0になるってことかな?

 うわ、てなると30って結構少ないのかも?


 ひとまずSTRとAGIに5ずつ振って、残り20。HPとSPにも2ずつ振ろう。あとは、INTに3で他の5つに1ずつ振る、と。えーっと、あと残り8か。ならSTRにさらに3、AGIに2振ってSTRが8、AGIが7になった。あとはHPとMPとSPに1ずつ振って終わりかな。


「おー? かなり早めに終わりましたねー! 私は即断即決は好きですよー! では、次に参りましょー!!」


 ベルの言葉で僕の目の前に出てきたのはスロットのような筐体だった。レバー式のもので、これからこれを回すというのが容易に想像出来てしまう。まあ、それで何になるのかはまったくわからないけど。


「次はー? デデドン! 魔力性質ガチャ〜!!」

「魔力性質?」


 僕の質問に待ってましたと言わんばかりに胸を張って喋り始める。


「魔力性質というものはですね、皆さん大好き魔法を扱うための才能のことなんです! 魔力性質を持たない属性の魔法は使用することが出来ませんのでご注意くださいね? 例外はありますが」

「いくつか種類があることはわかると思いますが、それは今作られたファントムあなたを削除して作り直しても変わることはありませんので。責任はとりませんよ!」


 パン、と手を叩いて宣言する。


「説明が終わったところで、実際にやってみましょう!!! ちなみにやり直しも引き直しもありませんからね!!」


 ちらっと筐体の方を見ると既に稼働を始めていた。多分だけど、このレバーを倒すと魔力性質が決まってしまうのだろう。


「……えーい、仕方ない。やっちゃえ!!!」


 ガチャリという音でレバーを倒す。すると、回転が徐々に遅くなっていき、動きが停止する。そこに映っていたのは、紫色のモヤだった。それを一言で表すなら――


「ぱんぱかぱーん! あなたは闇の魔力性質のようですね!! 闇……拘束や妨害、補助などの役割を担うことの多い属性です! 扱うのは多少難しいですが、扱えればとても強力ですよ!!」


 闇……闇、か。名前といい、とても縁があるな。まあ、これからよろしく。


「ふっふっふ、次で最後ですよー? 最後は! キャラメイクですっ! BSOの世界での体を作成して頂きます! ……ですが、現実とそこまで違うようには出来ないんですけどねー」


 パッと目の前に現実世界での自分が出てくる。これを……うわっ、少しずつだけど結構色んなとこ変更出来るね。うーん、でもそこまで変えようとも思わないよなぁ。


「目の色だけ蒼にして、っと。これで完成で」

「わかったよ! じゃあ最後に完成したステータスをどうぞ! BSOの世界を楽しんでね、ファントム! 女神アルテナの加護があらんことを!」


 ベルの見送りの言葉が聞こえると、再び目の前が真っ白に染まる。ダイヴしたときと同じ感覚だ。ここからやっとゲームスタートだ。


♢♢♢♢♢♢


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