第38話「琴音と七瀬のほんわかティータイム!」



「やっとこの本借りれた〜♪ るんるんるーん♪」


 放課後。

 七瀬は青髪のボブカットを揺らしながら、豪華絢爛な廊下を歩き進めていく。

 一冊の本を両手に抱えて鼻歌を鳴らしながら歩く彼女の姿は、すごく可愛らしくて楽しげだ。


 実は4月から予約をしていてようやく借りれたこの本。


 タイトルは『聖アルカディア女学園の秘め事』。


 なんと……!

 この本には過去に実在した聖アルの百合カプ録が記されているのだ。

 どこまでが脚色で、どこまでが事実なのか。


 真相は誰にも分からないが、緻密な文章で描かれる女生徒達の心情描写が生々しさを帯びており、決して表沙汰にはならないが歴史の裏で脈々と受け継がれてきたものらしい。


 えへへ……今夜は寝ないぞ〜〜!!


 ニヤニヤしながら歩いていると


 どんっ。


「あ……」

「あら」


 七瀬は誰かとぶつかってしまった。

 それはどうやら上級生のようだった。


 美人な人で彼女が優しく笑顔を浮かべてくれる。


「大丈夫? 前を見て歩かないとダメよ」

「あ…………えと…………す、すみません…………っ」


 小さく言葉を落として七瀬はぴゅーっと逃げ去るように歩き出す。


 うぅ〜〜やっちゃったぁ……。

 できるだけ知らない人とは接触しないようにしてるのに……。


 あぁ……態度悪かったよね絶対……初対面の人でもいつもの感じで喋れるようにしないと……。


 七瀬は反省しながら教室へと向かって歩いていく。


 ミズキちゃん達の前なら完全に自分をさらけ出せるのに。

 やっぱりわたしは根本的なとこでダメだな。


 わたしがのびのびできてるのは、周りのみんながいい人だから。

 


 きっとわたしは……すごく恵まれてるんだろうな。

 こんな人見知りでなんの取り柄もない、ただ百合が好きなだけのオタク女が、あんなすごい人たちのグループに入れてもらえてるなんて。


 普通はありえないことだよ。



 静流ちゃんは日本的な有名人で文武両道な完璧超人。そんな人とお互いに名前で呼び合う仲だなんて、誰にでも自慢できるくらいすごい事だ。お母さん達に電話で話したらすごく驚いてたなぁ。


 ミズキちゃんは荒々しいとこもあるけどいつも気を遣って優しくしてくれる。誰に対しても態度を変えず平等に接するすごい人。正直ちょっと憧れてる。


 そして西條さんは……。



 七瀬が教室に辿り着いて扉を開いた。


 するとそこには1人の生徒が残っていた。


 彼女がこちらに気づく。


「あっ、七瀬さん。本は借りれましたか?」

「うんっ。西條さん残ってたんだね」


 そこにいたのは友人の西條琴音。

 琴音は席に座って勉強をしていたようだった。


 七瀬はそのまま琴音の方へと近付いていく。


 近くに来て思う。

 本当に綺麗な人。この世の何よりも美しく思える純白のストレートヘアーに、一ミリのズレもなく切り揃えられた前髪。顔の造形も完璧で100人中100人が3度見したくなるほどの美少女。


 ううん……見た目以上に。


 その姿勢、所作、振る舞い。

 圧倒的な知識量と知能。


 そして絶対的な王のオーラ。


 人の上に立つべくして生まれたような、そんな雰囲気が西條さんにはある。

 

 でもやっぱり不思議だ。

 一番遠く感じるはずなのに……西條さんは、本当に不思議なんだけど、仲良くなってみると驚くほどに等身大で、喋っていると全然そんな差を感じさせない。


 琴音が柔らかく微笑んだ。


「はい。今日は部活もないですし、家での予定もないので少し学校に残っていようかと」

「そっかぁ……わたしだったらなんもない日は速攻で家に帰るよぉ」

「ふふっ。わたくしも普段ならそうします。でも今日は気まぐれで残って良かったです」

「どうして?」

「こうして七瀬さんと2人でお話できていますから」


 琴音の嘘偽りのない笑顔と言葉に、七瀬は少しドキッとしてしまう。


 あぁ……本当に素敵な人だなぁ。


 てかやっぱ静流ちゃんとお似合いすぎる!!!

 美麗で優雅なお嬢様カップリング!!


 くっ……是非とも静流ちゃんには恋を成就させて、もっと素敵な尊い甘々イチャイチャを見せてほしい!!!!


 でも静流ちゃんはミズキちゃんとの絡みも最高なんだよね〜〜!!

 ミズ×シズには無限の可能性を感じてる……!!!


 本人達に言ったらめちゃめちゃ怒られるけど……。


「あの七瀬さん……この後お時間ありますか?」

「へ?」


 七瀬がいつものように妄想トリップをしていると、不意に琴音から質問がぶつけられた。


 七瀬は意識をここに戻してその質問に答える。


「今日は用事もないから大丈夫だけど、どうしたの?」

「では30分ほどだけお茶でもいかがですか……?」


 琴音が少し緊張気味に尋ねてくる。

 七瀬はそのお誘いに驚きながらも、自身も暇だったのでその誘いに応じる事にした。


「うんっ! いいよ!」


 あんまし西條さんと2人きりで喋る機会も多くなかったし、それに静流ちゃんの為にも西條さんから色々話を聞けるかもだし。


「ほんとうですか!? では校内にあるカフェへ行きましょう!」

「うん!」


 それから七瀬と琴音は教室を後にした。



※  ※   ※

 


 そこは庭園にある売店とも、レストランのような食堂とも違う所にある喫茶店だった。

 店内はシンプルだが白塗りのゴージャスな作りになっていて、決して人は多くはないが、数組のお嬢様達が席に座ってティータイムを楽しんでいた。


 その中には七瀬と琴音の姿もある。


「はぁ〜〜ここのアップルティー美味しいねぇ」

「ふふっ、こちらのフィナンシェも絶品ですよ」

「ほんとに? 食べてみる〜」


 七瀬は白いお皿に盛られたお菓子へと手を伸ばす。

 琴音に勧められたフィナンシェを指でつまみ、それを口に運んだ。


「ん! ほんとだ、すごく美味しい!」

「他にもここはチーズケーキなども有名で、この学園の外から注文が届くことも少なくはないそうですよ」

「へぇ〜! そんなになんだ! 今度頼んでみようかなぁ」

「はいっ、ぜひ」

「うん〜〜。あ、そういえば球技大会の時はごめんね……なんか酷い事言っちゃってたみたいで……」

「あ、いいえ。大丈夫ですよ。七瀬さんの球技大会がお辛い気持ちは……痛いほど分かるので……」

「あはは……西條さんも大分渋ってたよね」

「運動は苦手です……スポーツは絶対に見るほうが楽しいです!」

「それは激しく同意だよ!! 運動なんてやるもんじゃない!」

「その通りです!!」


 2人で運動反対トークに花を咲かせながら、七瀬と琴音は笑い合う。


「でも逆にさ……ミズキちゃんと静流ちゃんは運動神経良すぎてすごいよねぇ」

「本当です。どうすればあんな動きができるのでしょう?」

「ねー。無理だよぉ……しかも静流ちゃんの方は頭も良くて美人さんで……本当にすごい人だなぁ」

「静流さん…………そうですね。あの方は本当に、すごい人です……それなのに、なぜ……」


 琴音は何かを思うように黙り込んでしまった。

 七瀬はその様子を気がかりになりながらも、少し新たな話題を提示する事にする。


「西條さんはよくこのお店来るの?」

「はい、皆さんが部活の時でわたくしの部活がない時などはよく。静流さんと来る事が多いですね」


「……え!? ちょっとその話詳しく聞かせて!」


 全く想像もしていなかった百合話の提供に、七瀬は思わず身を乗り出した。

 だって、それ……一番聞きたいとこだもん!


「静流ちゃんと一緒にってそれほんと!?」

「は、はいっ。静流さんも忙しい人なので放課後の30分程度だけですが……ここも静流さんに教えて頂いたんですよ」

「ふぁ〜〜そっかぁ……そっかぁ!!」ニコニコ

「ふふっ。七瀬さん楽しそうですね」

「そりゃそうだよ〜〜!」


 なんだ……静流ちゃん頑張ってるんだ。

 ちゃんと喫茶店にお誘いしたりして2人きりの時間を楽しんでるんだなぁ。


 これは2人が正式にお付き合いするのも時間の問題……!!


 んふふふ! あぁ、妄想が捗る捗る!

 今日は本も読みたいし、妄想もしなきゃだし寝るのは明け方だなぁ。


「でもこれからは七瀬さんとも、こういうお時間が作れたら嬉しいと思っています」

「へ……わたし?」

「はい。七瀬さんと喋っているとすごく落ち着くというか、なんだか癒される感じがして心地良いんです」

「えぇぇ!! そ、そんな好評価なのわたし!?」

「もちろんですっ! 七瀬さんには周囲の人を笑顔にする力があると思いますよ」


 琴音のなんの建前もない言葉に、七瀬は顔が熱くなっていくのを感じていた。


 そ、そんなに褒めるかなぁ、わたしの事なんて。

 別に良いとこなんて全然ないのに……それでも西條さんがわたしをそこまで認めてくれるなんて……純粋に嬉しいな。


 でもわたしにとっても。

 西條さんとはけっこう波長が合う気がする。

 喋っててもなんかずっとお互い笑顔でいれてる気がするし、居心地が良いっていうのはすごく分かるかも。


「うん……そうだね。わたしもたまに西條さんとお茶したい!」

「本当ですか? ふふっ、では是非これからも時々2人でお話ししましょう」

「うんっ!」


 七瀬と琴音は互いに優しく笑い合った。


「あ、そういえばさ、西條さんも猫好きだったよね」

「はいっ、大好きです。猫は世界で一番かわいいと思いますっ!」

「分かる〜〜! わたしも実家では猫飼ってたんだぁ」

「そうなんですね! どのような種類だったのですか?」

「えっとね〜〜」


 それから少しの間、2人は猫トークに花を咲かせ、ゆったりとした会話を楽しんだのだった。





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またまた後書きです!

いつも読んでくださってありがとうございます!


さて昨日あんな事言っといてなんですが

今日を含めて4日間連続で投稿します!!!


それ以降12月までは毎週月曜日に投稿しようかと考えています!

昨日思い切って休みをとって書いてみたら思いの外執筆できたので、たぶん毎週投稿できそうです……!


また3日後に最終報告します!

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

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