第28話「ミズキとカナと土曜の夜!」

 

 ピピピッ……!


 ホテルの一室。

 アラームが鳴る音で一人の女性が目を覚ました。


「ん……もう朝……?」


 女性は寝ぼけた意識のまま全裸の上体を起こし、あくびをしながら目を擦った。


 ボサボサに乱れた艶やかな黒髪、特段メイクをしていなくても美麗な顔の造形。大きくはないが十二分に女性らしさを感じさせる乳房に引き締まったウエスト。


右耳には銀色のピアスが煌めいてる。


 まだ高校1年生であるにも関わらず、その妖しげな雰囲気と女性としての魅力は完成しつつある。


 彼女――三沢カナはスマホを手に取った。


 今日は土曜日。

 時刻は10時ちょうど。


 ラインが80件ほど届いていた。

 ほとんどが過去の女たちだ。面倒だから無視しているが。


 そんなカナが真っ先に開いたのは、中学時代の後輩と相棒で構成された14人のグループ。そこに1件のメッセージが入っていた。


『ミズキ:お前ら今日絶対に朝日グラウンド来いよ。夜9時集合な』

『ミズキ:来なかったらしばく』


 カナはそのメッセージを見て頬を綻ばせる。


 ミズキ……ほんと純粋で健気…………後輩たちにイジられて顔真っ赤にしてるんだ。


 ミズキがみんなを呼び出しているのは、先日LINEでミズキを盛大にいじり倒したからだ。


 だって友人のあんな名言、むしろ無視する方がおかしい。

 こういうのは触れてネタにしてあげるのが愛。


 でも良いこと言ってたな。


 ミズキがああいう言葉を言うのは、決まって誰かの為だ。

 普段は意外と恥ずかしがりだし、こういうのをかっこつけて言うタイプでもない。

 きっと励ましたい相手でもいたのだろう。


「…………羨ましい」


 あの言葉を向けられる相手が自分以外にいるという事に嫉妬心を覚えつつ。


 カナは視線を横に向けた。


 ベッドでは裸の美少女がスヤスヤと眠っている。

 カナが通う高校でマドンナと呼ばれる美少女だ。


 つい先日堕とすことができたので、ようやく昨日喰べることができたのである。


「……ほいっ」


 カナはその美少女の巨乳を優しく掴んで、もみもみと堪能する。


 やわらか過ぎ。

 やっぱ女体さいこーー。


 10揉みくらいしていると、一人の後輩から個別ラインが入った。


 それは1つ年下の後輩。

 今現在中3の【須藤サチ】からだった。


『サチ:カナさん!!』

『サチ:今日姐さんから呼び出しくらってるじゃないすか?』

『サチ:でもウチら誰も行かないっすwww』

『サチ:みんなで近くのサイゼ行ってるんで、カナさんは姐さんと二人きりでゆっくり話しててください!!』


「サチ……あんたって子は……!」


 カナは後輩からのありがたいメッセージに感涙を抑えることができなかった。


 サチは後輩の中でも一番、ミズキや私の事を慕ってくれている。

 元々私とミズキが中二に上がった時、一番初めに舎弟になったのもサチだった。


 それに……【私の想い】も唯一知っていて応援もしてくれている。


 多分今回の事もサチが手を回してくれたのだろう。

 私とミズキを二人きりにする為に。


 バカで調子乗りぃなとこはあるけど、根はすごく良い子だ。


 カナはメッセージを返す。


『カナ:ありがと』

『カナ:20年以内には必ずお礼するから待ってて』


『サチ:いや期間ながww』

『サチ:せめて年内っすよw』


「ふふっ……」


 サチはかわいい奴だ。


 私の雑なボケにも気前よく返してくれる。


 さて、この女体もたっぷり満喫したし夜まで家に帰ってゆっくりしようかな。


 カナはベッドから起き上がって下着を身につけると、ハンガーにかけていた自分の服に着替えた。


 そのまま部屋の出口に向かってドアノブに手をかけ。


「……」


 扉を開く事なくUターンしてベッドに戻っていく。


 そして……


 もみもみ


 眠っている美少女の巨乳を右手で鷲掴みにした。


 やっぱりあと一回だけ揉んどく。

 ほんと極上乳。神っぱい。


 カナは最後の最後まで満喫した。



 ※ ※ ※



「…………」


 あたしは過去最大にイライラしていた。


 スマホを取り出して今の時刻を確認する。

 時間は夜の9時5分。


 今日は雲ひとつなく、輝かしい満月の光が広い公園の中に落ちている。


 この公園の名前は【朝日グラウンド】。

 昔からのあたしらの溜まり場だ。


 今日はカナ及び後輩どもの教育をする予定だったが……。


 なんで……なんで……!!!!


「誰もいねぇんだよぉおおおお!!! ちくしょーーー!!!!」


 あたしは月に向かって狼の如く雄叫びを上げた。


 そう、今この公園にはあたしを除いて誰一人としていないのだ。


 いや、なんで来てないんだよ!

 あたしは先輩だぞ!? 姐さんだぞ!?


 なんで無視するの!!?


「くそぉ…………あたしって……実は人望なかったのかな……」


「そんな事ないよ」


「え……」


 項垂れていると頭上から声が降ってきた。

 見上げるとそこには。


「か、カナぁ……!!」


 黒髪ショートのクール系美女。

 親友にして相棒の三沢カナが、オレンジジュースの缶を両手に持ってあたしの前に立っていた。


「お前は……きてくれたのか……?」

「当たり前でしょ。ミズキあるところに私あり。それが中学時代からの最強コンビ【ギャラクシー・ツイン・ドラゴンズ】でしょ?」

「カナ……お前……!! へへっ……やっぱお前は最高の相棒だぜ…………って【ギャラクシー・ツイン・ドラゴンズ】ってなに!!!??」


 訳の分からない異名で、あたしは感動の余韻を一気に吹き飛ばした。


 いやカナが来てくれたのは嬉しいけど!

 それより【ギャラクシー・ツイン・ドラゴンズ】が気になる!!

 初めて聞いたんだけど、そんなダセェ異名!


「あ、あたしら……中学の頃、陰でそんな呼ばれ方してたのか……?」

「いや。今私が適当に考えて言っただけ」

「そうか。よし……とりあえずムカつくから一発殴らせろ」

「え、やめてよ。暴力反対。女子が暴力なんてありえなーい」

「どの口が言ってんだテメェ!!!」


 こいつ……中学時代あたしと一緒に散々いろいろな奴をぶっ飛ばしてたくせに良く言うぜ。むしろあたしよりお前の方がやり過ぎてる時あったからな。


 くそ……カナのペースに飲まれてる……。


 はぁ……もうなんか怒るのも疲れたわ。

 そもそもはあたしをイジっていたこいつらを一発ビンタする為に呼び出したが、ここに来てくれた事への喜びが勝っちまってる。


「はい。待たせてごめんね」


 カナがオレンジジュースを差し出してくる。

 あたしは遠慮なくそれを受け取った。


「ったく……これで勘弁してやるよ」

「ありがと」


 それからあたしらは公園の中にある二人掛けのベンチに腰掛けた。


 春の夜風が心地いい。月明かりが公園を優しく照らしていて、夜の静寂が感傷的な雰囲気を作り出していく。桜の花びらがひらひらと舞い落ちていた。


 あたしとカナは同時にオレンジジュースの缶を開いて、いつものように言葉を交わし始める。


「お嬢様学校はどう?」

「ん? ああ、楽しんでるぜ。いつメンも決まってきたしな」

「へぇ、どんな子達?」

「良い奴らばっかだぜ。まぁ……全員何かしら変なとこはあるが」


 琴音はグロい化物やオカルト好き。

 七瀬は度を超えた百合オタク。

 金髪は琴音の為す事は全てが絶対正義の琴音教信者。


 あいつらよく考えるとけっこう愉快な奴らだな


 まぁ……すげぇ良い奴らなのは間違いない(金髪を除く)。


「あ、そういや園芸部に入る事になったぜ」

「え、うそ。ミズキが? なんの冗談?」

「嘘じゃねーぞ。意外だろうがマジだ」

「今世紀最大の驚きなんだけど……なんでまた?」

「いや色々あってな。ポメっつーイカれ教師があたしの運動神経に目をつけやがってよ、陸上部に勧誘してくんだよ。そんで、うちは兼部禁止だから」

「あーなるほど。じゃあそのポメから逃げる為なんだ」

「そ。それに顧問が担任だしな。担任の先生良い人だし、ここなら良いかなーって」


 あたしはハナチャンの素性についての事は隠す事にした。


 何やらマジで大物っぽいし、国に監視されるとかやべーこと言ってたし。

 たぶん言わない方がカナの身の為だ。



「そっか…………高校生活楽しんでるんだね……」



 少し寂しそうに言うカナに、あたしはなんとなく視線を向けた。


「……」


 夜風がカナの黒髪を儚げに揺らして見せた。

 視線を逸らしたあたしはオレンジジュースを口に運んで、小さく言葉を呟く。



「まぁ……でもやっぱお前と2人でいるのが一番落ち着くわ」



「……っ。なに、急に」


 カナが小さく笑う。


「いや別に。なんとなく、今、そう思っただけだ」


 あたしは何かを隠すように、もう一度オレンジジュースを口に運んだ。

 その様子がカナにどう伝わったかは分からない。


 カナはあたしから視線を逸らしたあと、持て余したかのように空に輝く満月へと視線を向けた。


 少ししてから、いつもの余裕ある笑顔をこちらに向ける。


「ビックリした。また名言を言い出したのかと思った」

「て、テメェなぁ! 掘り返すんじゃねぇよ!!」

「あははっ。うん……私もやっぱ……ミズキと居るのが一番良いな……」

「……あたりめーだろ。何年一緒にいると思ってんだ」

「……私は特別?」

「……聞くな、そんなこと」

「……そうだね」


 この世の中。

 言わなきゃ伝わらないことばかりだ。


 だからあたしはできるだけ色々な思いは口にしたいと思ってる。

 嬉しいことも、ムカつく事も。

 どれだけ恥ずかしい事も、名言だと揶揄われても。


 でも。

 言わなくても伝わる思いがあるとすれば。


 それはすごく美しいんだろうなって……そう思う。


 あたしとカナは互いに顔を見合わせた。


「そういや今週のワンピース読んだか?」

「読んだよ。めっちゃおもろーだった」


 いつものように他愛もない話を始めて。


 あたしとカナは結局、深夜の3時頃まで2人で駄弁り続けていた。

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