第26話「部活紹介!」



「茶道部は皆様の来訪をいつでもお待ちしております」


 和服を着た美しいお嬢様たち数名が、講堂の正面ステージ上で丁寧に頭を下げていた。


 それを受けて講堂の中が拍手で包まれる。

 あたしの両隣に座っている七瀬と琴音も拍手を送っているので、あたしもそれに続くように拍手を送った。ちなみに金髪は琴音の隣に座っている。


 今行なわれているのは部活紹介だ。

 先ほどから講堂のステージ上に色々な部活が現れては、その魅力を紹介して勧誘している。


 まぁどれだけ異次元でも聖アルだって高校なのだ。

 当然に部活はあるらしい。


 バスケ部、水泳部、テニス部、科学部、茶道部、文芸部など。普通の高校にあるような部活も存在している。


 それ以外にも……。


「どうも。チュパカブラ研究会です。この部活ではUMAの一角チュパカブラに関する資料を世界中から集めて読み漁り、その存在可能性を徹底的に議論するだけでなく、自身がチュパカブラになって外泊する【チュパカブラ体験6泊7日】を毎年冬に実施しています」


 気が狂ったような部活もあるが。


 誰が入るんだその部活……って。

 右隣を見ると琴音がキラキラと瞳を輝かせていた。


 そういやこいつ……悪魔とかグロい怪物系が好きなんだったな……。


 お嬢様って意外とセンスがおかしいのかもしれない。


「昨年は11名が入部し、現在は総勢24名の部員がいます」


 部員多いな。


「では皆様の入部をお待ちしております」


 最後にお辞儀してチュパカブラ研究会が壇上から去っていく。


「ミズキさん! あの部活はありかもですね!」

「ねーよ」


 テンション高めに言う琴音に、あたしは呆れたツッコミを返した。


 まぁどこに入るかは琴音の自由だが、あの研究会にマジで入ったらかなり衝撃だな。


 さてまだあるみたいだな。

 次はどこだ……って……!!


「ハローエブリワン!! 陸上部顧問の【結城まひろ】よ!! みんなー元気ーーー!? せーの!!」


「「「…………」」」


「もうっ! みんなノリ悪いわね!!」


 あたしはそいつを見て頭を抱えた。

なんでお前が舞台上に出てんだよ……ッ!


 お嬢様たちにコール&レスポンスを強要し、たった今壮絶な無視を喰らったあの教師は。



 そう、あたしの天敵ポメだ。



 ポメの野郎……相変わらずトチ狂ってんな。


「ちょっと結城先生! 勝手に出たらダメですよ!」


 壇上の袖口からユニフォームを着た少女が駆けて出てくる。

 おそらくは部活勧誘をする予定だった陸上部だろう。その表情からポメが独断で勝手な行動に出たことが読み取れる。


「大丈夫よ! すぐに戻るから! 私の目的は……神田ミズキさーん!!!!! あなたよーー!!! 今すぐ陸上部に入りなさーーい!!!」


「げっ!」


 瞬間、クラスメイトの視線が一斉にあたしの元へ向かう。


「ミズキちゃん……まだ追っかけられてたんだね……」


 七瀬が不憫なものを見る目をあたしに向けた。

 さすがの金髪もあたしに対して同情の目を向けてくれる。


「あなた……もう諦めて陸上部に入った方が気が楽になるのではなくて……?」

「誰が入るか!! あんなポメ野郎の元で部活なんざ死んでも無理だ!!!」

「でもミズキさんが陸上部に入れば、きっと全国区でも活躍間違いなしですよっ」


 琴音が笑顔で呑気に言うので、あたしは琴音の両肩を掴んで痛切な表情を浮かべた。


「おい琴音……頼むからこればかりはあたしに味方してくれ……」


 あたしの気迫と悲壮感に、琴音もあたしの気持ちを汲み取ったようだ。


「え、は、はい……! で、では入らない方がいいと思います!」

「それでいい……」


 とりあえず周りが味方してくれないと、あたしはあいつの圧に耐えられそうにねぇ。

 あいつほんとやべーから。


「あれー!? 神田さーん!! 返事しなさいよー!!! あたしの求愛を無視するだなんて……うふふ、私追いかける恋に夢中になるタイプなの!! 神田さーん!!!」


 誰が返事するか!!!

 マジで誰かあいつをどうにかしろよ!


 あたしがぼやいていると、陸上部数名が壇上に出てきてポメを無理やり引きずっていく場面が視界に入った。


「先生やりすぎですよ!」

「そうです!! 陸上部の印象が下がってしまうではないですか!」

「そんなのどうでもいいわよ!!!!!!! 神田ミズキさん!! 私はあなたが欲しいの!!! あ、ちょ…………待ってるわよ〜〜〜神田さ〜〜ん……………」


「「「…………」」」


 ポメはそのままどこかへと引きずられて行ってしまった。


 半端ねぇ嵐だった……あれがオリンピック金メダリストの迫力か……。


 周囲から「気の毒に……」という感情が込められた視線が向けられた。

 うん、まじでな。


 これは本格的にどっかの部活に入らねぇとやばいな……。


 部活は兼部が禁止されている。

 だからどっかに入っちまえばあいつの勧誘から逃れられるんだが。


 如何せん入りたい部活がねぇ。


 もういっそのことチュパカブラ研究会にするか……。

 なんか逆に興味出てきたわ。


 それからも特に気になる部活はなく、どうしようかと悩んでいると


「ん……あれって」


 袖からステージ上に出てきた女性にあたしは反応してしまう。


 それはふわふわのパーマがかかった緑髪に赤縁眼鏡をかけた女性。


 そう、あたしらの担任ハナチャンが現れたのだ。


 なんでハナチャン?

 生徒じゃねぇのか? まさかポメよろしく誰かを勧誘とか?


 気になっていると、ハナチャンがマイクを持って穏やかに微笑んだ。


「みな、さ〜〜〜〜ん…………こんにち……は〜〜〜〜」


 相変わらずの激スローペースだな。

 この人の周囲だけ時間の流れが遅くなってんじゃねぇかな。


 毎朝ホームルームで会ってるが、このスローさにはいつもビックリする。


「私はぁ……【園芸部】のぉ……顧問をしてるん、だけど…………部員が、去年で全員卒業しちゃって〜〜……今0人なのぉ…………だから入ってくれると、嬉しいなぁって……思ってます〜〜〜〜……みんなでお花とか野菜……育てよ〜〜う。以上で〜〜す」


 それだけ言って、ハナチャンは穏やかな表情のままにゆっくりと壇上を後にした。


 なるほど。

部員が一人もいないからから先生が出てきたのか。


 にしても園芸部か……花とか野菜を育てる……。


 部員がいない……顧問はハナチャン……。


「……ふむ」


 あたしは少し考えていた。



 ※ ※ ※



「色々な部活があったね〜みんなは部活入るの?」


 講堂から出ながら七瀬が尋ねてきた。

 あたしらはもう当たり前のように、いつもの4人組で行動するようになっている。


 まずは金髪が答えた。


「私は部活には入りませんわ。そもそもあまり時間がありませんもの…………」

「天宮さん忙しそうだもんね……」

「七瀬さんはどうしますの?」

「私は『文芸部』! 理想の百合小説を描きまくるんだぁ……ふへへ♡」

「お前寮でも時々書いてるもんな」

「うんっ!! 1番近くに極上の百合カプが3組もいるからネタは無限に供給されるし……それに文芸部はどうせみんなオタクで陰キャでコミュ障ばっかだからわたしの同類ばかりだもん!!」

「お前いつか刺されてもしらねぇからな」


 こいつ……時々過激な思想持ってんだよな……。


 この前だって寮の部屋でくつろいでる時も…………あぁ、いやこれはやめとこう。


 マジで炎上するやつだわ。


「琴音様はどうされるんですの?」


 金髪が興味津々に尋ねる。

 すると琴音は満面の笑みで言った。



「わたくしは……チュパカブラ研究会にしますっ!!」



「「「えぇ!!!??」」」


 琴音の衝撃的な発言に、あたしら3人は一斉に驚愕の声を重ねた。


 いやあたしはまだこいつの趣味とか知ってた上での衝撃だけど……。


 七瀬と金髪は本当に目が飛び出しそうなくらいに驚愕して、口を大きく開いていた。

 そりゃこのパーフェクトお嬢様があんな気が狂った部活に入ろうとしてるなんて、初見なら誰でも驚くだろうな……。


「さ、西條さん!! ほ、本当に言ってるの……?」

「はいっ! チュパカブラはとても可愛いくて、わたくしの趣味にぴったりですからっ!」

「か、かわいい……? かわいいかな……かわいいって、何……? わたしの好きな百合漫画の女の子達もかわいい……つまり女の子は、チュパカブラってこと…………?」

「おい七瀬、戻って来い」


 あたしは訳の分からぬ論理飛躍をする七瀬に声をかける。


 一方で金髪も衝撃的な事実を中々理解できないでいたようだ。


 しばらく固まっていた金髪だったが。


 こいつはそんじょそこらの琴音ラブ勢ではない。

 ガチ中のガチだ。


 金髪はすぐにいつもの表情に戻ると


「さっっすがですわ琴音様!! 他の方とは違う特殊な感性!! まさに天才が持つそれです!!! アインシュタインの再来と言えましょう!! 素晴らしいご判断ですわ!!」


 全力で琴音を肯定した。


「そ、そうですか……? えへへ、ありがとうございます」


 琴音が頬を赤くして嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


 金髪もすげぇ奴だよな。こいつなら絶対に琴音を悲しませたり落ち込ませたりしないんだろう。琴音への愛情と敬意だけは世界一だ。


 まぁフォローが凄すぎてたまに超気色悪いが。


「それでミズキさんはどうされるんですか?」

「あたしは……」


 琴音に尋ねられてあたしは考える。

 いやもうほぼ決心は付いている。


 あたしが入ろうと考えてるのは



「あたしは……【園芸部】に入る」



 告げた瞬間、3人の超意外そうな顔が目に入った。

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