第“一”章

第1話

第??話


それはいつもの様な朝の事。


俺は目を疑った。


何度も瞬きして……それでも変わらない目の前の花瓶。


目の前の机___沙夜子の机の上に、花瓶が置いてあった。


中身はない。


ただ空の花瓶が、机の上に身動きもせずに乗っていた。


花瓶だけが。


……いじめ?


初めに思いついた言葉はそれだった。


いや、違う。


俺は黙ったまま否定する。


いじめじゃない。


確かに沙夜子はおとなしかった。

クラスで話した事があるのかってくらい、誰とも喋らなかった。


花瓶が彼女の机の上にあった時に……一番初めに“いじめ”を疑うくらいには。


だけど、違う。


俺はゆっくりと視線を巡らす。


俺たちがいる窓際から。


教室の後ろを通って、廊下側へ。


後ろから、教卓の方へ。


1、2、3、4______


パッと見て16


あからさまに可笑おかしい数の花瓶が、生徒の机の上に並んでいた。


教室には、もうすでに何人かの生徒が来ている。


花瓶の横で話す者。

花瓶の乗った机に腰を下ろす者。


……まるで、彼らは“何も見ていない”かのようにそこで振る舞っていた。


いつも通りの、下らない朝の教室。


彼らが醸し出すそんな空気感が、場の奇妙さをより引き立たせている。


「何なんだよ……なんで、誰も反応しねぇんだよ……」


自分の声すら届かない錯覚を覚えて、俺は眩暈を感じた。


焦りと疑問と不安感。


それに押しつぶされそうになって、俺は服を握った。


___カサリ。


乾いた音。

手がズボンに当たった拍子に、その音がポケットの中から聞こえた。


……何なんだよ。


何なんだよ一体。


教室の空気と自分との間に、亀裂が走ったようだった。


頭が痛い。

ガンガンする。


「大丈夫?」


しゃがみ込んだ俺に、クラスメイトの誰かが声をかけた。


「どうしたの?」

「体調悪いのかよ」

「保健室行く?」


次々と降って来る言葉に、押しつぶされそうになる。


「悪ぃ、保健室行く」


俺は誰にでもなく言った。


……いや、俺は確かにに向けて言った気がした。


誰に?


その問いは、朦朧とした意識の渦に飲み込まれて消えた。

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