第27話

第27話


「……僕はですね、一高くんの為にこの学校に来たと言っても過言じゃないんですよ」


彼は窓の外を眺めながら言う。


「厳密にいうと、一高くんのメンタルケア兼監視ですね。

……そうですねぇ、この際言ってしまいましょうか」


少しだけ彼の表情が、真顔になった。


「僕は、です」


夢術管理協会。


それは、夢術者の情報を管理すると言われている機関。


夢術が関わる事件は、ここの管轄になるという。

あまりの厳しさからつけられた異名は、「夢術者狩り」。


そんな機関の職員が、今、俺の目の前にいる。


俺は生唾を飲み込んだ。


だが、彼には俺を攻撃する様な素振りがなかった。


むしろ安心しきったような体勢をしている。


「……なんで、俺たちを騙した」


逃げ出したい気持ちを堪えて、俺は尋ねる。


「騙しているだなんて、人聞きの悪いこと言わないでください。

……いや、竹花くん完全なる被害者か。

君を巻き込んでしまった事だけは、僕の落ち度ですね」


握った自分の拳に爪が食い込む。


何が落ち度だ。


散々人の気持ちを弄びやがって。


だが、藤先生は続ける。


「一高千恵里は、最初から夢術管理協会の管理下に置かれるべきでした。

彼女の夢術能力は、安定した試しがない。

その上、他人の五感すべて操る彼女の夢術は、あまりに殺傷能力が高すぎるんです。

本来ならば管理協会の本部奥深くに幽閉される手筈でした。

……でも、それって悲しいでしょう」


彼の目は、どこか遠くを見ていた。


少なくともその目の中の悲しみは本物なのだろう。


「だから、僕が監視する代わりに、彼女が中学に通えるようにしたんです。

だけど最近になって、一つ問題が出来てしまった」


それが、君ですよ。

彼はそう言った。


そのこと自体が、彼女のメンタルに大きな悪影響を与えるんです。

だから僕は考えました。

……一高くんに、新しい“使命”を与えれば良い。

そうすれば、彼女は竹花くんが居なくてもメンタルを保っていられる」


随分身勝手な話だ。


俺は彼の話を聞きながら思う。


それで、一高ワン子に居もしない少女の記憶を植え付けたのか。


俺が卒業した後も、彼女がその調査に心を向けるように。


「おおかた、俺はその辻褄合わせってとこか?」


俺は尋ねた。


彼は、静かに頷く。


「ええ、そうです。

……もちろん君が卒業した暁には、君から“金花沙夜子”の記憶は消すつもりでしたよ。

巻き込んでしまって、本当にすみませんでした」


俺は握った拳を開く。


「……話は、分かった。

俺たちを騙していたことは許さない。

許せないけれど……先生が頑張ってくれていたのも分かった。

だから___」


俺は彼を見上げた。


「___取引をしましょう、鬼ヶ崎藤先生」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る