第26話

第26話



「……藤先生」


予想通り、彼は防火扉の前で待っていた。


「あ、ちゃんとお姉さんには挨拶して来ましたぁ?」


空気を読まない、その笑顔。


俺は一瞬詰まって……それから、言う。


「誤魔化さないでください。

……全部騙してたくせして」


ぎゅっと俺は拳を握る。


藤先生の長い髪が、揺れた。


「騙す……?

僕は可愛い生徒にそんなことはしませんよ」


「俺と一高ワン子に、散々幻覚を見せていたのは貴方でしょ」


俺は食い気味に言った。


……アンケート結果を作ったのは、彼だった。


教師である彼なら、噂を広げることも容易いだろうし、アンケート結果を書き換えるなんて造作ない事だっただろう。


それに、彼の夢術は毒だ。


俺と一高ワン子の記憶を書き換えて幻覚を見せる事だって出来る。


例えば……そう。


金花沙夜子という生徒の記憶を作り上げる事だって。

生徒がような幻覚を見せる事だって。


その証拠として、盛春が見せた映像と俺の記憶には確かな齟齬があった。


「……おやまぁ。

僕は随分竹花くんに嫌われてるみたいですね」


それでもなお、彼はのらりくらりとかわそうとする。


俺は唇を噛んだ。


「藤先生は、だ」


「……」


俺の一言に、確かに彼が固まった。


「沙夜子が消えた日、アンタはを壊してたもんな。

……おおかた、幻覚の設定がブレたんだろ?

だから、アンタがその花瓶を壊すことで俺たちの幻覚に影響を出した」


「はて、僕は花瓶なんて壊した記憶はありませんが」


「……なら、アンタは部室で

割れた陶器のようなものを掃除していたよな。

あれが花瓶だろ」


「……」


にっこりと、彼が笑う。


「……竹花くんは、鋭いですね。

勘のいいガキは大好きですよ」


某漫画のセリフをもじって、彼は言う。


「……竹花くんを巻き込んだことは、悪かったです」


それが、彼が自分が犯人だと認めた瞬間だった。

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