第25話

第25話


「どういう、こと……なのだよ」


いまだに殺されかけた興奮が収まらないのか、上擦った声が一高ワン子から出た。


「……俺が」


彼女の言葉すらまともに理解できないくらい、俺の脳は真っ白だ。


「俺が、消したのか……?」


どすん、とその場に腰を下ろす。


すぐに一高ワン子が駆け寄って来た。


……駄目だ。


俺は彼女からバッと距離をとる。


「触んな!」


思わず、キツい叫び声を上げてしまう。


一瞬彼女は肩を振るわせたが、すぐに息をついた。


「大丈夫なのだ。

……千恵里ボクは、消えないよ」


俺は壁際で身を堅める。


その手に、そうっと彼女が触れた。


彼女はその手を、ゆっくりと俺の頬に移す。


ほら消えないよ。


そう言いたげに。


「……初めて夢術を使った時、ボクも似たようなものだったのだ。

上手く使えなくて、頭の中から指先まで、ぜぇんぶグチャグチャになったのだよ。

それでもどうにか頑張って、今こうして先輩と居れる」


「……」


俺は何も答えられなかった。


手の中から人が消えるというのは、それほどにショックな感覚だったから。


それでも、一高ワン子の言葉はゆっくりと俺の緊張を解いていく。


彼女は続けた。


「……先輩、これはボク達だけの秘密なのだよ。

ボクは、中学を卒業したら……高校には進めないのだよ。

夢術管理協会ってところに引き渡されて、きっとそこから出られない。

……これ、ボクのトップシークレットなのだよ」


彼女が口角を上げる。


それは随分と歪な笑顔だった。


一高ワン子

…………ありがとう」


上手く回らない舌で、俺はそう返した。


そうだ。


そうなんだ。


一高ワン子を救う為にはんだ。



俺は、足に力を込める。


ゆっくりと立ち上がって、彼女から離れる。


「ありがとう一高ワン子

……おかげで、決心がついた」


この後どうすれば良いか、俺は知っている。


誰のところに行けば良いか、どうすれば良いか。


分かっている、もう戻れないということも。


「え……?」


彼女の目がまんまるくなる。


「待ってろ。

ちょっと……やってくることがあるから」




最後の仕上げは、俺がやるんだ。

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