第24話

第24話


【竹花楽都side】


校舎に引き返そうとした瞬間、目の端でキラリと光る物があった。


……何だ?


俺は反射的に光の方を見やる。


部室棟の一つの窓。

「探偵倶楽部」の部室だ。


そこに一瞬光った___


「……っ」


俺は駆け出した。


靴を脱ぎ捨て、部室棟に走る。


あれは、あれは、あれは!


あからさまにそれは物騒な物だった。


キラリと光るほど振り翳してはいけないもの。


長い廊下を走って、部室のドアを開ける。


幸い鍵は掛かっていなかった。


開け放たれた扉の向こうで、が舞った。


……血。


一高ワン子!」


俺は叫ぶ。


頬に傷をつくった彼女が、潤んだ目で俺を振り返る。


助けて、と言いたげな彼女が。


それと同時に、ナイフを持った人物が振り返った。


それは、烏羽盛春だった。


「楽都、邪魔だ」


彼は至極真剣に言う。


そのナイフは既に血に濡れている。


彼に胸ぐらを掴まれている一高ワン子は、力一杯盛春を突き飛ばす。


一瞬彼の体が傾いだ。


俺はその間に割って入る。


そして、そのまま盛春を押し倒した。


「やめろ、楽都、そいつを殺せば……っ」


なおも彼は喚く。


押し倒したにも関わらず、彼の手には未だしっかりとナイフが握られていた。


俺は彼の首に手をかけた。


「何やってるんだよ盛春!」


お前はそういうことをしないだろ。


俺の脳はそう叫んでいた。


そんな記憶ありやしないのに。

分かっているのに。


なのに、盛春はこんなことをする人間じゃないと、そう叫んでいる。


「お前はヒーローになるんじゃねえのかよ!」


俺は、そう口走っていた。


「ヒーローなんて……無理なんだよ!」


盛春の悲痛な叫び。


「オレは、ヒーローになんてなれっこ無い!

だって……お前を助けることすら出来なかったんだよ!

大事な友達ですらな!」


やめろ、どうして俺は泣いているんだ。


こいつは中学にはいなかった。

俺と友達であるはずがない。


なのにどうして、こんなに胸の奥が辛いんだろう。


「そんなことない……俺は、俺はお前に十分救ってもらった」


ギュッと首を絞める手に力が入る。


「楽、都……お前は…」


苦し紛れに、彼が言葉を搾り出す。


もうやめてくれ。


頭がガンガンするんだ。


痛いんだ。


俺はギュッと目をつぶる。


盛春が、言葉を続けた。




「お前は、本当は——にじ



































突然、声が止んだ。


まるでテープが切れるように、ぷつりと。


それと同時に俺の手の感覚がなくなる。


「……え……」


目を開けた俺は呆然とした。


しゃがみ込んだ一高ワン子も、きっと同じような表情をしている。


そこには、


俺の手の中にいたはずの盛春は、跡形もなく消えていた。



___夢術:



それは明らかに俺の夢術だった。


「……ぁ……あぁ……」


知らない、そんな夢術。


なんだよそれ。

俺がそんなものを使えるだなんて、知らない。知らなかった。


「ちが……いや……あ……」


それでも確かに、それは俺の夢術だった。


「あああああああああああ……っ」


——俺は、自分の手で盛春を消してしまったのだった。

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