第21話

第21話


「なんでここに居るんだよ」


俺はもう一度同じ事を繰り返した。


まだ大した事を彼女に言われたわけでもないのに、心拍数が上がっていく。


それを嘲笑うかのように、彼女は作り上げられた表情を崩さない。


「こっちに帰って来たついでに、楽都の様子を見に来たの。

……元気そうで良かった」


今、心呂は実家から離れて暮らしている。


高校が家から遠いのと、一人暮らしを体験する事で教養を身につける……その為に。


元はと言えば、その高校だって俺が提案した高校なのだけれど。


「何が元気そうで良かっただよ」


俺は彼女に聞こえないように吐き捨てる。


俺が彼女にその高校に行ってほしいと言った理由は、一つは単に俺の行きたかった高校に行ってほしいという願いから。


もう一つは、彼女を自分から遠い所に置きたかったから。


毎日毎日、姉と比べられる毎日。

劣等品だと、指を指される毎日。


お前は心呂が死んだ時の代わりなのだと、分からせられる毎日。


それのどこが元気だというんだ。


だが、それを大声で心呂に言うことはできなかった。


自分の言っている事は、僻みでしかない。


それを知っていたから。


「そうそう、ちょっとしたお土産を持って来たの」


彼女は自分の手提げをゴソゴソと漁る。


俺はその様子をただ黙って見ている事しかできなかった。


彼女の鞄から出て来たのは、小さなポチ袋。


「……お年玉?」


これには流石の俺も、声が漏れた。


それを聞いた心呂がふふふっと笑いを漏らした。


「時期が違うじゃないの。

残念ながらお年玉じゃないわよ。

……これは、おまじない。

楽都が辛くなった時に、開けてね」


それを俺が受け取るや否や、彼女はくるりと踵を返した。


長い髪が、ふわりと風に舞う。


「じゃあね、楽都。


彼女の背中はあっという間に遠ざかっていった。


……勝手な奴。


俺は手の中のポチ袋を握りしめる。


中に何か固いものが入っているようで、変な形に丸まってしまった。


捨てて仕舞えばいいのに、それを学ランのポケットに入れたのは……きっと、俺のエゴだろう。

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