第14話

第14話


【竹花楽都side】


そのまた次の日。


「ちょっと良いですかー?」


「ヒェッ…」


道ゆく生徒の視界にひょっこり現れては、その道を阻む長身。


例外なく、それに捕まった生徒はプルプルと震え出していた。

小鹿のような子供達と、2回か3回ほど言葉を交わし、そして去っていく。


次の獲物を狙って。


……こう説明すると、なんかの都市伝説のように見える。

だが、それは間違いなく俺が頼んだ結果だった。


「……やっぱり藤先生に頼んだの、間違いだったか?」


俺は早くも後悔を感じていた。


このままじゃ、藤先生が学校七不思議に数えられる日もそう遠くないかもしれない。


彼は目立つ。そして(長身で)威圧感を持っている。


だから、俺は彼に聞き込みを頼んだのだ。


「良いですよぉ」


と即答した時点で止めておくべきだったかもしれない。


ただ、その威圧感がこんなにも大きいものだとは知らなかったんだ。

そう、知らなかっただけなんだ、俺は。


「なぁ楽都、うちの学校にあんな都市伝説みたいなのあったっけ」


顔を歪ませて、通りすがりの盛春が俺に尋ねる。

その表情は、半分恐怖、半分ドン引きによるものなのだろう。


「……俺、花子さんの話を最初にやった人の気持ち分かったわ」


俺が彼にこう返すと、彼は悟ったように目を伏せた。

この罪は重いぞぉ、と盛春は静かに呟いた。


案の定、その日の内に、全校に“白衣の男の質問に間違えると殺される”という噂が立ったのだった。


* * *


「いやぁ、皆さん協力的で助かりましたぁ」


余程生徒と話したのが楽しかったのか、ニッコニコの藤先生。


協力的なのは、見え見えの作り笑いで迫ってくる長身が怖かったからであって。


俺は被害に遭った生徒達に、密かに心の中で詫びていた。


願わくば、彼らのトラウマになりませんように。


千恵里ちえりを置いて何してたのだよぉ、先輩。

……ん?先輩?せんぱーい?」


不服そうな一高ワン子の顔が、やがて心配そうな顔になる。


「……やっぱりワン子と俺でやるべきだったか…?」


「竹花くん、聞こえてますよ?」


俺の呟きを聞いた藤先生が、笑顔で俺に迫る。


「……聞き込みを藤先生に頼んだ」


俺は彼を聞き流しながら、一高ワン子に答える。


数秒遅れて、一高ワン子も事のマズさに気がついたらしい。


「質問の答えを間違えた生徒をナタで殺す、血まみれの白衣の男の噂………謎が解けたのだよ…」


盛られてる盛られてる。


噂に尾鰭が付いていて、藤先生がなんか怪物扱いを受けているが……まぁ、もうそれは良いか。


「噂がどうとか気になりますが、とりあえず頼まれた事は纏めましたよぉ」


はい、とメモを差し出す藤先生。


「……あなたのクラスは何人ですか?

あなたのクラスの全員の名前を言えますか?」


メモに書かれた字を読み上げたのは、一高ワン子だった。


「とりあえず20人くらいには聞けましたねぇ。

クラスもバラバラになるように聞いて回りましたよ。

……でも、昼休みの間だけとは中々な無茶振りですねぇ」


怖いかどうかはともかく、俺の意図も汲んでくれたらしい。

データとしては助かる。


「認識の相違を確認しておきたかったからな。

答えが他の要因に影響されないように、一気にやっておいてほしかったんだよ。

……ま、結果的に正解だったんだけどな」


おかげで、噂の影響は免れた。


Q 1、あなたのクラスは何人ですか。

___多少の前後はあるが、多くの生徒が正解を言っていた。

少なくとも、不自然な数字はない。


Q 2、あなたのクラスの全員の名前を言えますか。


答えは一つだけだった。


___全員、NO

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