第13話

第13話


【夢術管理協会/後輩side】


「どうもお邪魔しまーす」


躊躇なく、先輩が扉を蹴り開ける。


小汚い外装とは裏腹に、部屋の中は至って綺麗だった。


半分引きこもりの様な生活をしていると聞いていたが、掃除は行き届いている。


「邪魔するなら帰って〜」


奥の部屋から、か細い声が聞こえる。


「じゃあお邪魔になりませーん」


お決まりの返しをしながら、先輩はさっさと靴を脱いで部屋に上がった。


あまりに躊躇無い行動に、俺は小さく溜息をつく。


“協力者”と呼ばれている彼は、詰まるところ俺の元同級生だ。

高校の時に3年間同じクラスだった。


何度か話した思い出もあるし、体育のペアはよく組んでいた。


……世間一般的に見りゃあ、仲の良い友達のようなものだったのだろう。


そのはずなのだが、どうして先輩とこんなに仲良いんだか。


「おっ、酒持ってきたのか?

今ツマミ出すから待ってろよ」


“協力者”は、俺たちを居間に通すや否や冷蔵庫に走った。


チラリと冷蔵庫の中身を盗み見るが、レトルト食品ばかりが並んでいた。


……多分、人と会うのが苦手なんだろうな。


俺は静かに邪推する。


高校時代、あいつはよく人と話していた。

色んな人と広く浅く付き合いをしていた、といった方が正しいのかもしれない。


……だけど、キツかったのかもな。


彼はずっと理想を追う様な人間だった。

だからこそ、人と話すという理想に溺れていたんだろう。


その結果、卒業後に反動が来てしまった。


身の回りの整頓やら生活やらは規則正しい辺り、理想を追う癖は抜けていないみたいだ。


「手伝うよ、“協力者”くん」


先輩はサッと腰を上げて彼の手伝いに行ってしまう。


「良いよ、座ったままで!

……っていうか、いつになったら本名で呼んでくれるんだよ」


“協力者”はお盆にチーズを乗っけて戻ってきた。


「しゃあねぇだろ。

仕事柄、本名出しちゃダメだし」


俺は微かな気まずさを感じながら答えた。


ふーん、と彼は興味なさげに頷く。


……“夢術者を管理する”という仕事をしていれば、逆恨みはつきものだ。


中にはその夢術の危険性から、1人の人間の未来すら潰さなくちゃいけない事もある。


彼には悪いが、本名で付き合うのは避けておきたい。


「さて、そろそろ本題に入るっすかぁ」


先輩は、缶ビールのプルタブを引いた。


……飲むのかよ。


俺の視線を尻目に、彼女は一気にビールを煽る。


「今日は、あくまでも経過報告だよな」


“協力者”もノンアルの缶を開ける。


「……経過報告?

依頼じゃなくて?」


俺は彼の言葉に眉を顰めた。


まだ彼には依頼どころか、状況説明さえしていないはずだ。


だというのに、何故彼は“経過報告”と言ったのだろう。


「あぁ、それねぇ。

私が出したのよ、依頼」


「……は?」


既に呂律が怪しい先輩を、睨む。


しかし、彼女はグッと親指を突き出した。


「早め早めに手は打っておいて問題ないでしょう?

大丈夫、彼に依頼したのは一回分だから。

後輩くんも気づいてたでしょうに」


「そうそう。

お代は近況報告やら写真やらだよ」


“協力者”もうんうん、と頷く。


「いや、待てよオイ。

100歩譲って依頼出してたにしても、俺をお代に出すな!」


俺はテーブルから身を乗り出して叫ぶが、馬鹿2人は飄々としたままだった。


「大丈夫だよ、依頼はちゃんと果たすから」


協力者は、俺にコーヒーの缶を突き出しながら笑った。

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