第12話

第12話


【夢術管理協会】


「ってことは後輩くん、大卒?

私は高卒で此処夢術管理協会に入ったんだけど。

そっかぁ、同い年だったかぁ。

はぇー……ってか結構君童顔なんだねぇ」


「……よく喋りますね」


足と一緒に動いてるのかっていうくらい、よく動く口。


俺達は二人連れ添って外を歩いていた(非常に不本意だが)。


何も知らない人から見たら、会社の同僚かなんかでデートしているように見えるだろう。

勿論デートなんかじゃない、デートであってたまるか。


任務だ任務。


今回の事件で協力してくれそうな情報屋に、会いに行くところだ。


もっとも、引きこもりだから手伝ってくれるか怪しいところだけれど。


「暗い任務が多いのに黙りこくっちゃあ、それ葬式だって。

そんなの嫌でしょ?

ところでお姉ちゃんいる?

居そうな顔してるよ、後輩くん」


「姉が居そうな顔ってなんですか」


「童顔」


「根拠なさすぎです、まぁ居ますけど」


ペラペラマシンガンに付き合ったら負けなのだろう。


だけど、無視してたら無視したで後で面倒くさいので、適当に返しておく。


「ところで、後輩くんはさぁ」


俺の足先に、彼女が回り込む。


ショートの髪が揺れた。


「獏を見つけたらつもり?」


おちゃらけている。

俺は彼女をそう思っていた。


だが、実際のところ……彼女の目には、決定的に足りないものがあった。


普通だったら、あるべきはずの……光が。


全く無いわけじゃない。

現に彼女の双眸は太陽を反射している。


だけど、その後ろにあるのはドス黒い闇。ドロドロと渦巻く黒だった。


「ん?」


首を傾げて答えを促す彼女。


可愛らしい動きのはずなのに、彼女のそれは寧ろ不気味に見えた。


「……俺、は」


耐えきれずに、目を逸らす。


彼女から目を逸らしながら、俺は歩き出した。


「俺は、あいつの事を“獏”だなんて思ってない。

人間です。……生きている人間だ」


彼女の体を押し除ける。


「あちゃー……拗らせてるっすねぇ」


だが、帰ってきたのはおちょくるような笑みだった。


「……何か」


俺は振り返って、彼女を睨む。


「いーや、何も?

君がそれが良いなら良いんじゃない?

あと、待ち合わせって此処だったよね」


彼女が指差した先には、小汚いアパート。


小洒落た外装の建物の影に隠れるように建っているその建物が、情報屋の住処だった。


「……はぁ」


俺の喉から間の抜けた返事が出る。


どうもやっぱり先輩は、俺の苦手なタイプの人間なのだろう。


ふとした瞬間に、周りの人間を自分のテリトリーに引き込んでしまう。

それでいて、自分の素顔は全く見せない。


……俺がこの世で最高に苦手な人物も、そんな人間だったから。


「あ、そうそう」


俺の手を強引に引きながら、彼女が口を開く。


「私は殺すつもりだよ。

“ニンゲン様の成り損ない”は」


そしたられはアイツを指しているのだろうな。

そう思った。

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