第10話

第10話


【夢術管理協会/後輩side】


管理協会は、全国に支局がある。


……無いとそもそも夢術者の監視は成り立たないのだが。


俺が居るところも、その支局の一つだ。


支局を纏める地方局と言った方が正確なのかもしれないが。


一番最初の配属が地方局という点では、俺はキャリアとして上の方なのかもしれない。


まぁ、興味なんて無いけれど。

それでも給料は高ければ高い方がいい。


__ただ一つ問題点があるとすれば。


「……失礼します、局長」


俺はやけに重い扉を開いた。


重厚な造りの局長室の奥では、一人の男性が椅子に身を預けている。


豪華だが、多少古いデザインの家具。

年代物だろうに、サビや汚れは一切見受けられない。


それがこの若い局長の性質をよく表していた。


瀬川流せがわ ながれ

それが彼の名前だった。


……いや、彼はそんなに問題じゃない。


局長というにはあまりに若すぎるとか、そういう問題はあるにしろ……まぁただの厳しい局長だ。


問題はそこじゃなくて___


「いらっしゃーい」


ヒラヒラと局長の横で手を振る女性。


「何やってるんですか、先輩」


飄々とした様子が、人を小馬鹿にしてるようにも見えることを、彼女は知ってるのだろうか。


俺の最近の悩みの種。


「……一応ここ局長室なんだぞ。

私語は慎んでくれ」


「すみませんっす」


案の定、局長の苦言が飛んだが、彼女は舌を出すだけで躱してしまう。


「そんなことより、お前にこれを預けたいと思う」


局長は無視を決め込んだらしい。


彼女の横を素通りして、彼が俺に書類を渡す。


「……」


黙って目を通す俺。


回りくどい文章は、上層部特有のものなのだろうか。


だが、その言い回しが嫌いなのは局長も同じだったらしい。


「端的に言う。

管理協会の本部で“管理”していた夢術個体が逃げ出した。

仮称として、“バク”と名付けられていた個体だ。

管理形態の脆弱さが原因らしいもんで、上層部はてんてこ舞いだよ。

“早く捕まえろ”って、毎日のように言ってくる」


半分愚痴が混ざっているのは、目を瞑っておこう。


少なくとも……俺にとって重要なのは、その個体がという点だ。


元々それは一人の夢術者だった。

だが、夢術の暴走によって___回りくどくいうと、人間として死んだ。


本人の理性よりも夢術を使う本能が強くなって、ただの夢術放出装置と化したのだ。


生命を維持する行為もすることができないため、生命維持装置でどうにか命を保っていた状態。


そうして“それ”は、夢術管理協会の本部で保管されていた。


……そのはずだった。


「今更どうして」


俺の呟きに、先輩が答える。


「経年劣化だよ、機械のね。

ずっと獏は外に出ようとしていた。

その首輪が壊れたんだから、外に出ていくのは至極当然だよね」


それを継いだのは局長だった。


「お前が獏にずっと目を付けていたのは知っている。

お前が関係者だってこともな。

……そこまで加味して、お前にこの件を任そうと考えている。

勿論コイツも連れていってもらうけどな」


先輩を雑に親指で指す彼。


「まー、可愛い後輩くんの為っすからね。

頑張るつもりだよ」


コイツ呼ばわりされている癖に、謎のドヤ顔。


「後輩くんって何歳?

私より若そうだけど。

20?……いや、下手すりゃ10代?」


ウザ絡みしながら、俺を局長室から押し出していく。


俺は局長に会釈しながら答えた。


「25です、今年で」


「うっそ」


先輩の手が止まった。


「……同い年なんだけど」

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