「写真」

 写真というのは、思い出を形で残せるもの。写真は、昔の昔からあるもので、今となっては、とても進化している。昔のはモノクロで、今はカラー。技術も進化していて、カラーだったものをモノクロにする技術もある。


 そんな思い出を形にする写真を僕たち夫婦は大事にしている。どんなときでも、その瞬間を写真に収める。事故画?そんなものは僕たちの間では存在しない。どんな一枚だろうと、それは価値のある、宝物だ。


 今の時代となってくると、多くの人、特に若者は写真をスマホで撮ってフォトアプリで保存する。それをSDカードに移して、保管する。あとはなんか、チェキみたいな写真が撮れるカメラも今は、これまた若者の間では人気だそうだな。


 僕たちが使うのは、スマホでもチェキカメラ(仮)でもない。ただのカメラだ。カメラマンが使うようなカメラには似ているがそんなに高価なものではない。小柄なカメラだ。そのカメラの中に僕たち夫婦の思い出を最大限に表現する。光加減はもちろん、角度とかは気にするけれど、ポーズは好きなポーズで撮る。


 僕たちが撮る写真の背景はすべて本物。合成など一切しない。加工もしない。それでは、「思い出」とは言えなくなるだろう?


 僕たちが撮る写真は色んなジャンルがあって、食事はあるし、お出かけはもちろんある。ただのツーショットや寝顔、料理を作っている最中の妻の様子、全てこのカメラの中に収まっている。


 だが、タイムリミットがある。後一ヶ月しかない。今まで撮った写真をアルバムに入れる作業もしなきゃだし、お出かけもたくさんしないといけない。僕にはこれしか妻のためにできることがない。もっと妻を楽しませたい、笑顔にしたい。でも、時間は迫りくるばかり。妻は後一ヶ月しかこの世界で生きることができない。妻は一ヶ月後に空に飛んでいってしまう。妻の火葬までには、アルバムを完成させて天国まで持っていってほしい。そして、天国でも僕のことを想っていてほしい。


 そのためには、僕たちの思い出を形にしなくていけない。たくさん…たくさん…。

 次はどこへ行こうかな。僕はまた、妻のための思い出作り活動を始めた。








 ※この話はフィクションです

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