#9 失明したカルロさんの治療

 レイラの吐露の後、昼ごはんを食べ、マルロスさんの商館にやって来た。


「お待ちしておりました、ヨシユキ様?」


 マルロスさんが驚いている。


 それは俺の腕にレイラがしがみついていたからだろう。


「これは、気にしないでもらえると助かります……」


 あれからレイラは俺にべったりになってしまった。


 正直、それは凄く嬉しいが、他人にそれを見せるのは気が引けた。


「わかりました。

 患者様がお待ちです。

 こちらへどうぞ」


 俺とレイラはマルロスさんに連れられて、患者の居る部屋に入る。


 そこには見た感じ50歳ほどの男と30歳ほどの男がソファーに座って居た。


「カルロ様ご紹介します、こちらがカルロ様を診てくださるヨシユキ様とその従者の方です。

 ヨシユキ様、こちらはダダリオ商会の元会長のカルロ・ダダリオ様と現会長のアルベルト・ダダリオ様です」


 目を閉じて座っている年寄のほうが患者のカルロ様か。


「カルロ様、初めまして、ヨシユキと申します。

 本日はよろしくお願いします」


「ヨシユキ様、本日お世話になりますカルロと申します。

 今日はよろしくお願いします。

 私はただの老いぼれ、様付けは不要です。

 それに今日は貴方に診ていただく身です。

 そんなに畏まられては困ります」


 思ったより、良い人そうだ。


「それならば、私も何の肩書もない一般人です。

 私にも畏まらなくて結構です」


「ヨシユキ様、今日は父の為にありがとうございます」


 アルベルト様がお礼を言う。


 二人共こんな年下の俺に丁寧過ぎる対応をしてくれた。


「いえいえ、マルロスさんの紹介だったのでお構いなく。

 アルベルト様もそんなに畏まらなくて結構です」


「わかりました。

 では私にも畏まった態度は不要です」


 




 堅苦しい挨拶が終わった。


「では、早速診てみましょう。

 カルロさん良いですか?」


「お願いします」


 今回カルロさんは失明している目を診てほしいとのことだ。


「失礼します。

 目に触れますね」


 カルロさんの両目に両手で触れ、目が見えるようにイメージする。


 すると、自分の中から力の流れがカルロさんの目に向かっていくのを感じる。


 力の流れは徐々に収まり、途絶えた。


「終わりました。

 目を開けてみて下さい。

 どうですか?」

 

 カルロさんがゆっくり目を開ける。


「うっ」


 カルロさんが呻く。


「眩しい……眩しいぞ!」


 カルロさんは興奮している。


 部屋が明るすぎて、光の刺激が強すぎるのか。


「カルロさん、1回目を閉じて下さい!

 久しぶりの光で刺激が強すぎるようです!」


「マルロスさん、部屋を薄暗く出来ますか?」


「わかりました、直ちに」


 マルロスさんがカーテンを閉めてる最中、カルロさんは息子のアルベルトさんに興奮しながら喋りかけていた。


「眩しかったぞ!

 これはもしや本当に!」


「父上、気持ちはわかりますが少し落ち着いて下さい」

 

 アルベルトさんはなだめるのに苦労していた。


 カーテンが閉まりきったので、再びカルロさんに目を開けてもらう。


 この暗さなら大丈夫だろう。


「何か見えてきましたか?」


「アルベルトこれはお前か?」


 カルロさんがアルベルトさんの顔を掴む。


「そうですが、顔を掴まないで下さい!」


「おお、マルロス。

 懐かしい顔だ。

 そしてこちらがヨシユキ様ですか。

 こちらはなんと美しいお嬢さんだ……」


 どうやらちゃんと見えるようになったようだ。


 カルロさんが光に慣れてきたようなので、カーテンを開ける。


「おお――。

 世界はこんなにも色鮮やかだったのか」


 カルロさんは目が見えるようになって、興奮しっぱなしだ。


「ヨシユキ様、ありがとうございます!

 このカルロ、人生でこれほどまでの喜びを感じたことはありません!

 心から感謝いたします!」


「それは良かったです。

 私もそこまで喜んでいただけで嬉しいです」


「ヨシユキ様、父の為に本当にありがとうございます!

 あらゆる手を尽くしたのですが、悪くなる一方で遂には失明してしまった父を再び見えるようにしていただいて!」


 興奮と感謝が止まらなかったので落ち着いてもらうためにも俺とレイラは一度退出することになった。


 やっぱり、人が元気になる姿を見るのは気分がいい。


 治療して良かったと思える。


 神様に感謝しなくては。


 神様ありがとうございます。







 ダダリオ親子が落ち着いたので、親子の居る部屋に戻る。


「先程は少々興奮してしまいまして、申し訳ない。

 マルロスから話は聞いております。

 ヨシユキ様をいざという時に教会から守る話ですね。

 私を救って頂いた貴方の為なら何だって致します」


 グイグイ来てちょっと怖いぞ……。


「ありがとうございます。

 もしもの時はよろしくお願いします」


「それで謝礼なんですがいくらをお望みで?

 このカルロ出し惜しみは致しません!」


 めっちゃグイグイ来る……。


 マルロスさんに助けての目線を送る。


「カルロ様、ヨシユキ様は苦しんだ者からは多く取るのは心苦しいそうなので、大金貨1枚程度はいかかですか?」


「なんと素晴らしいお方だ。

 その優しさが心に染み渡ります。

 だがマルロスそれは安すぎる!

 無礼ではないか?!」


 おっと、今度はマルロスさんが責められ始めた。


「では、大金貨10枚ではどうでしょう?

 多すぎないかと思います」


「ふむ、そうだな。

 その辺りが良さそうか。

 ヨシユキ様に多くを押し付けては迷惑になりそうだからな」


「ヨシユキ様、これでよろしいですか?」


 マルロスさんから収めましたよという視線を受けた。


「わかりました。

 有り難く頂戴致します」


 俺は深々と頭を下げた。








「ふ――」


「お疲れ様でした」


 マルロスさんと俺とレイラはいつもの応接室に戻ってきた。


「とても元気な方ですね。

 圧倒されました」


「そうでしたね。

 でも、カルロ様は失明してからは絶望に打ちひしがれていましたから、元気な姿を見たのは数年ぶりです」


 マルロスさんも嬉しそうだ。


「マルロスさんとカルロさんってどういう関係何ですか?」


「言っていませんでしたっけ?

 カルロ様は私の恩人なのですよ。

 私が商売で行き詰まった時に、助けて頂きました」


 なるほどね。


「謝礼はあれで良かったでしょうか?

 多すぎましたか?」


 大金貨10枚は多い気がするかな。


「貰い過ぎかなとは思いました」


「でもあの状態のカルロ様ならその10倍以上渡そうとしかねません」


 マルロスさん、あなたが居て本当に良かった。


「お金の受け渡しの準備ができたみたいです。

 お帰りになりますか?」


「お願いします。

 今日はありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました」


 こうして俺とレイラは宿に帰った。


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