#8 レイラの吐露

 頬に温もりを感じた。


 これはレイラの手だ。

 

 頬を優しくさすってくる。


 俺は朝から幸せ者だ。


 目を開けると目の前にレイラの顔があった。


 シーツにくるまり、女神が横たわってるようだった。


 レイラは俺が起きたのに気づくと、さすってくれていた手を引っ込めてしまった。


「おはようございます、ご主人様」


「おはよう」


 俺は引っ込んでしまった手を掴み、再び自分の頬に持ってくる。


「申し訳ありません、ご主人様」


「別に悪いことはしてないよ。

 それにレイラからしてくれて嬉しいよ」


 俺もレイラの頬に触れる。


 お互いに頬に触れながら、見つめ合う。


 レイラの顔を引き寄せて、唇で唇に触れる。


 そしてギュッと抱きしめる。


 彼女も抱きしめ返してくれる。


 レイラ成分をチャージする。


「起きようか」


「はい、ご主人様」






 起き上がると二人共裸だ。


 レイラの綺麗な背中を見るだけで高ぶってきてしまう。


 俺は顔を壁に向ける。


「俺の服を取って、着替えは自分でやるから。

 今レイラの裸見るとヤバいから、レイラも着替えて」


 俺は服を受け取り、壁に向かったまま着替える。


「着替え終わった?」


「はい、ご主人様」


 安全確認が取れたのでレイラを見る。


 彼女は手を前に重ねてちょこんと立っていた。


「かわいい」


 もちろん、奮発して買った彼女用の服も可愛いがちょこんと立ってる姿がかわいい。


「ご主人様もかっこいい……です」


 ?!


 今、レイラがかっこいいと言ってくれたか?!


「え?」

 

 聞き返す。


「なんでもありません、聞き流して下さい、ご主人様」


 重ねた両手をニギニギしながら言う。


 そんな彼女に肩の上から抱きつく。


 彼女は俺の脇の下から肩に向かって手を回してくる。


 彼女の首に顔をうずめ、彼女で深呼吸する。


 レイラの匂いがする。


 素晴らしい朝だ。


「朝食を食べに行こうか」


「はい、ご主人様」






 朝食後、マルロスさんとの約束は昼だったので、レイラと少し散策する。


「レイラはこの街馴染みあるの?」


「いえ、奴隷としてこの街に来ただけです」


 好きな人と目的なく歩き回るのは幸せだ。


「レイラは元々はどんな所で暮らしていたの?」


「この街程大きくないですが、クロシナという街に家族で住んでいました」


「家族はどうしてるの?」


 一歩踏み込んだ質問をする。


 予想通り、話しにくい事らしく彼女の視線が落ちる。


「両親は私が奇病になって、治すことに奔走してくれました……」


 レイラは言葉を詰まらせる。


 俺は彼女の手を握る。


「私は中々良くならず、父は仕方なく悪い噂の絶えない人々に頼ってしまいました……」


 彼女の目から涙があふれる。


「父はその後行方不明になり、ある日私と母は捕まってしまいその後離れ離れに……」


 マルロスさんが言ってた話とちょっと違うな。


「そうか。

 わかった、わかった。

 辛いことを聞いてゴメンな」


 レイラを抱きしめる。


「私は本当は幸せになっていい人間じゃないんです。

 私のせいでお父さんとお母さんは……」


 涙が決壊したように流れてくる。


 それは違う。


「レイラ」


 彼女の顔を覗き込む。


「その考え方は違う。

 レイラはお父さんとお母さんの為にこそ、幸せにならないといけないんだよ

 レイラのお父さんとお母さんだってレイラには幸せになって欲しいはずだ。

 だから幸せになって良いんだよ」


「お父さんとぉ、ひっく、お母さんをぉ、ひっく、不幸にしたぁ、ぁああ、娘でもぉ、幸せにぃ、ひっく、なってぇ、えええ、いいんですかぁ?」


 彼女は号泣しすぎてまともに喋れなくなっていた。


「そうだよ。

 レイラが父さんとお母さんを不幸にしたんじゃないよ。

 3人に不幸が降り掛かってしまっただけだよ。

 そんな風に考えちゃダメだよ」


「うわあああんんん」


「一番苦しかったのはレイラでしょ?

 これまで散々耐えて耐えて耐えてきたんだから、幸せになる権利は人一倍あるはずだよ」


「うううううっうっあああ」


 過呼吸みたいになっている。


「大丈夫、大丈夫。

 幸せになっていいからね。

 大丈夫、大丈夫」


 俺は必死にレイラを落ち着かせる。


 彼女の涙で俺の服はぐちゃぐちゃで、すごい力で掴んでいるから俺の背中が完全に出ている。


 そのままあやしていると、徐々に落ち着き、ぐったりと俺にもたれ掛かった。


 相当泣いたから、疲れ果てたんだろう。


 こういう症状に効くかわからないが治癒の力をレイラに使ってみる。


 彼女を休ませるために近くのベンチに座らせようとするが、俺の服をがっちり掴んでいたのでお姫様だっこみたいな形で一緒に座った。


「少しは落ち着いた?」


 彼女はコクンと頷く。


「取り乱してもうしわけ……」


 彼女はそう言いかけたが、俺の唇で塞いでやった。


 ディープな方で主導権を握った。


「謝らなくていいから。

 そしてもっと自分の好きなようにしていいよ。

 したいことがあったらしても良いんだよ。

 俺は怒らないから」


 彼女に言い聞かせる。


「……もっと」


「ん?」


「もっとキスして欲しいです」


 ?!


 レイラからの初のおねだりだ。


 ご要望通り、キスしてあげたが彼女は止まらなかった。


「もっと欲しいです」


 できる限り応えてあげたが、ここらが止め時だろう。


 流石に午前中から目立ち過ぎだ。


 結構ヤバいことをしてる自覚がある。


「レイラ、流石に続きは夜にしよう」


 彼女はようやく自分の置かれた状況を理解したらしく、恥ずかしさのあまり、顔が見えないように俺の胸に顔をうずめてきた。


「あ、そうだ、レイラ。

 これをあげるよ」


 取り出したのは先日買ったネックレスだ。


 三日月型のネックレスだ。


「このネックレスはレイラが幸せになってもいいと示すものだよ。

 幸せにしてあげると約束は出来ないけど、一緒に幸せになろうね」


 彼女にネックレスを付けてあげる。


「もう幸せになってはいけないなんて思わないでね」


 笑顔でレイラを撫でる。


「はい、ご主人様」


 彼女はネックレスを大事そうに触っていた。


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