第11話  同床異夢

 おもてなしの酒宴は夜半まで続き、さすがに久々の痛飲と戦疲れもあって、そのまま宴が行われていた広間で寝てしまう者まで現れた。


 久宜も酔いが回り過ぎて、フラフラと歩きながら、宛がわれた寝室へと酔った体を、どうにか自身の足で運ぶことができた。


 部屋の前に到着し、ふすまを開けると、そこにはすでに布団が敷かれていた。そして、その横で待ち構えていた女人の姿もあった。


 不意な出来事で、さすがに最初はギョッとしたが、すでに頭にまで酒がしっかり回っており、判断力も鈍化していた。


 なにより、その待ち構えていた女性の艶やかなる所作に、目も心も奪われてしまったのだ。


 待っていたのは他でもない、“元”城主の妙林であった。



「おや、妙林殿、このような場所でいかがした?」



 わざとらしく尋ねる久宜であったが、妙林が何を目的としての“待ち伏せ”かは問うまでもなかった。なにしろ、敷かれた布団には、枕が二つあったからだ。


 久宜の姿を確認すると、妙林は三つ指を突き、頭を下げ、久宜を出迎えた。そして、ゆっくりと頭を上げ、笑顔で応対した。



「久宜様、薩摩国より戦に出られ、はや数ヶ月のことと存じ上げます。さぞ、女子の肌に恋しいかと思いまして、もし私などでよろしければ、今宵は御夜伽の相手を務めさせていただきとうございます」



 無論、目の前の久宜だけではない。すでに他の武将達にも女を宛がってある。正月までの逗留が決まった以上、徹底的に骨抜きにしてしまうつもりでいた。


 自らの肢体もまた、相手をたぶらかすための道具に過ぎないと、妙林は完全に割り切っていた。


 もちろん、それを表情に出すことはなく、心の内より歓待していると思わせねばならないのだ。


 久宜も酒に酔った勢いもあって、そのまま妙林の体を布団の上に引き寄せた。白無       垢の装束はその勢いで乱れ、肌があらわとなる。つい先日まで兵を殺めていたとは思えぬほどに柔らかく、滑らかであった。


「あら……」


 つい漏れ出た妙林の言葉に、久宜はさらに興奮の度合いを高めた。


 仏門に入っていると聞いてはいたが、これはなんと勿体ないことかと、その滑る肌の艶やかなることを、言葉に表すことができないほどだ。


 ほのかに刺し込む月明りに浮かぶ久方ぶりの女子の柔肌は、何ものにも勝る馳走であった。


 先程の酒や料理など、この時の前座に過ぎなかったと思えるほどだ。


 はだけた衣は肩から滑り落ち、へその辺りまで姿をあらわとした。型の良い乳房はその形を崩すことなく天を衝き、挑発しているかのごとく山を成していた。


 久宜は思わず生唾を飲み、そして、むさぼった。


 久しく味わっていなかった女人の肌を思う存分味わうこととなった。


 その女人が殺意に満ちた鬼や死神の類であることも知らずに。


 夢から醒めた後にどうなるのか、この時の久宜は一切思い至る事はなかった。



             ~ 第十二話に続く ~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る