第28話熱血昭和スポ根系山崎顧問は、悟に暴行したいけれど

音楽室では、若宮悟が、ベートーベンの田園交響曲をピアノで弾いている。

既に生徒のほとんどが聴きに来ていて、同じように先生方も多い。

大半は、うっとりと聞き惚れているけれど、その中に「真っ赤な顔」で怒っている先生がいた。

(熱血昭和スポ根系のテニス部山崎顧問である)


そもそも、山崎顧問にとって、若宮悟は、「愛弟子クマゴロウ」に勝ち、「罰ゲームまで与えて、落ち込ませた」、弟子のカタキ。(昭和風に言えば、憎んでも憎み切れない相手)


そして、山崎顧問は、クラシック音楽など、全く理解できない。

(女子供の、お習い事としか思えない)

(日本男子は演歌!それ以外は許したくない)

(聞く曲は。全て昭和のド演歌、K三郎が多い)

(そもそも、若い男がピアノを弾くなど、論外であると思う)

(ヘナチョコ、青びょうたん、日陰のモヤシ、根性なし等々、あらゆる昭和風の蔑み言葉が頭に浮かぶ)


山崎顧問の本音は、

(まず、女子供の遊びの悟のピアノ演奏を止めさせたい)

(怒鳴りつけて、テニスコートに引っ張り出して、苛めたい)

(暴行と言われても、愛弟子クマゴロウのカタキを取りたい)

である。


しかし、悟の周囲の生徒も多く、先生方も多いし、豊乳白鳥恭子もデンと控えていることから、現状では至難。


「下手に入って行って大騒ぎになれば、ボーナス減かも」

それでなくても、パチンコで大損、その腹いせで新宿三丁目スナックの姉ちゃん(ブスとは思ったけれど、それしか残っていなかった)に「大枚」を使ってしまって「金」がない。

(そんな生活なので、サラ金も少々・・・100万以上、ちなみに貯金はゼロ)


イライラが募るテニス部山崎顧問の隣に、体格立派な須藤講師(空手部顧問)が立った。

「いいなあ、悟君は、実にいい!」


山崎顧問は、つい反発した。

「あんな青びょうたんの、ヘナチョコ野郎のどこが?」

(頭の悪さを露呈した)


須藤講師は、そんな山崎顧問に注意。

「それ、学園長の前でも言いますか?」

「差別的発言は減給対象でしたよね」

「悟君は、音楽で人をまとめる力があります、現にこの状態でわかるでしょ?」


「うっ!」と目が虚ろになった山崎顧問に、さらに追い打ち。

「悟君は、実は合気道の実力者で、名人のお孫さん」

「私も勝負して、ポンポン投げられました、タイミング、呼吸をはかるのが、実に上手い」

「それが、音楽でも、生きているのかな」

(須藤講師は、空手全国大会の3位経験者で空手部も、毎年全国大会準決勝以上)

(テニス部顧問がかなう相手ではなかった)


テニス部山崎顧問は、悟のピアノに背を向け、雑踏の中を教員室に帰った。

「どうせクラシックなんて、高嶺の花、俺には、わかんねえし」

「それにしても、気に入らねえ、あの青びょうたん」

失意の山崎顧問のスマホにメッセージが届いた。

スナックの「ブス姉ちゃん」からの「借金督促」だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る