第7話 天然なところもある美少女。

「ボロ負けしました。すいません。僕はクソザコです。いくらでも罵ってください」

「ふふふ……練習でも……ふっ……やんなかったのに…………本番で……ふふっ……やるとか……まじで……ふはっ……」

「おいそこ笑い過ぎだ」

「はははっ! 笑うだろふつー」

 れいせきを切ったように笑いだす。

「そ、それより大丈夫なの? その、頭から落ちたよね? 大丈夫? 」

「そうだよ~大丈夫なの~? 零くんも笑ってる場合じゃないよ~」

 思いのほか夜宵やよい朝姫あさひもガチで心配しているように見える。

 それもそうだ。俺はさっき――――


          ◇◇◇


「よーし、時雨しぐれ気合入れろよー! 」

「お、おう。やれるだけは……やるよ」

 とは言ったものの、さっきからめっちゃ足がガクブル震えてるんだが? 生まれたての小鹿なんだが?

「時雨ー、はよ乗れー? 」

「わ、わかった。今乗る……」

 すーはー……よし、乗るぞ……。

「ちょっ、時雨」

「な、何? 」

「お前めっちゃ足震えてる……」

「気のせいじゃね? 」

 いや、まったく気のせいじゃない。その通りだ。いや、でもそう思いでもしないとやってらんない。

「あ、ちょっ、時雨重い! 腕に座るな! 」

「へっ? 」

「腰! 腰上げろ! 」

 あ、ほんとだ。いつの間にか座ってた。

「あ、今度はまた足が震え始めたぞ! 」


 パァン‼


 そこで急にピストルの音が鳴った。開戦の合図だ。

「まずいぞ! こんなところでモタモタしてたらすぐ負ける! 」

「時雨動くぞ! 」

「え? 急にはって――うわぁ! 」

 えっ、な、なんか練習の時より動くの早くないか?

「なんか不安定だ! 時雨、足治んないのか? 」

「むり」

 それよりも、なんか目の前からものすごいスピードで突っ込んでくる騎馬がいるんだが? 目がギラギラしてるんだが? あれ、やばくね?

「な、なぁ、あれとやるのか? 」

「タゲられてるし、やるしかないな」

「マジか……終わった……」

「ハチマキ取られなきゃ大丈夫だろ」

 うわっ、もう来やがった。あ、あぶねっ!

「おわっ、時雨っ、あんまり揺れるな! お前の足、ただでさえ不安定なんだから! 」

「いや、でもこの相手ヤバいって」

 目、血走ってるって! ガチすぎだろ! 俺になんか恨みでも…………完全に否定できないのが悔やまれる!

 てかこいつ、全く躊躇せずに頭狙ってきやがる。こっわ。でも、取られないようにしないと。

 ――かいが左右に大きく揺れる。

「あっ」


 ズルッ


「イッ――‼ 」

 やば、足滑った! でも大丈夫、騎馬が支えてくれて――え?


 ズサァァァァ‼

『時雨ーーーー‼ 』


――――ということがあった。

 一応、騎馬をやってくれていたクラスメイトが、俺が足を滑らせたとき、腕で一瞬支えてくれてたけど、俺の落ちる力に耐え切れなくて、何故か俺は頭から落ちた。どうやったら頭から落ちるのか、俺にも理解できない。

 そのクラスメイトには謝り倒されたが、実際俺の頭のちょっとした擦り傷以外、特に何もない、なんなら足をガクブル震わせてた俺の方が悪いまであるから、ちょっと申し訳なさまで感じる。

「まぁ、唾つけときゃ自然と治るよ。ちょっとした傷だからな」

「そ、それなら、ちょっと恥ずかしいけど……私の唾液もつけてあげる……舐めればいい? 唾つけとけば治るんでしょ? 」

 夜宵がちょっと上目遣いになりながら提案してくる。こいつ、本気で言ってるのか? あ、ガチでやろうとしてる。

「ちょ、ちょっと待て。言葉の綾だ。本気にしなくていい。その、心配してくれる気持ちは本当に嬉しいんだが、それをガチでやるとその……ヤバいから。な? 」

「あ、う、うん……そう……だ……ね……」

 最後まで言い切ったところで、夜宵がボンッと音を立てて顔を真っ赤にしてしまった。多分、自分が言った言葉の意味を再認識したんだろう。

 夜宵と二か月半近くを一緒に暮らしてきて思ったが、こいつ意外と抜けてるというか、天然なところがあるんだよな。こういうところが少し心配に感じるんだけど……まぁ大丈夫か。

『体育祭午前の部が終了いたしました。これから一時間のお昼休憩になります。生徒の皆さんは――――』

「お? お昼だってさー」

「そうだね~確かにお腹空いたかも~」

「食べ行こっか。ほら、壊くんも! 」

「はいはい。今行くよ」

 今日は弁当に結構力入れたからな。喜んでくれたら嬉しいな。……………………なんか俺の思考、主婦になってないか?

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ルームシェアの相手は学校一の美少女でした。 或守 光 @Light_4rs

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