第6話 遂に来た体育祭当日。

「あ゙あ゙、死゙……ぬ゙……」

「おーい、だいじょぶかー? 」

「これみて……大丈夫だと……思うか……? 」

「うーん……ゾンビみたいだと思う」

「なんだ……その例え……」

 今、俺――――時雨しぐれかいは地面に突っ伏していた。いや、地面ではなく床だ。体育館の床。そこに俺はうつ伏せでぶっ倒れている。ちょっとひんやりしてて気持ちいい。

「まぁ、受け答えできてるなら大丈夫だなー。体育祭開始までもう時間無いから、それまでに復活しとけよー」

 そう、れいが言うように、体育祭開始までもう時間が無い。あと数分だ。今日は体育祭当日。地獄の日がやってきてしまった。だが、今日が終わればこの地獄の日々から解放される‼ と言うわけで、とりあえず。

「無茶…………言うなってのっ! 」

 俺は言いながら起き上がる。うん。確かに体は痛い。連日の体育祭練習で全身バキバキのボロボロだ。精神まで疲弊している。

 だがまぁ、練習したからには勝ちたいな。

 俺は、自分で気づくくらいには結構負けず嫌いなところがある。そのおかげで執筆活動を続けられているまである。いや、言い過ぎか。だが、間違いではないだろう。

「無茶じゃないじゃん。さぁ早く移動しようぜ。みんなグラウンドに集まってるぞ」

「ああ、そうだな。行くか」


          ◇◇◇


「あーやっと来たー! 」

「遅いよ~二人とも~」

 ようやく自分のクラスのテントまで移動した俺と零は、学校トップ2の美少女二人に迎えられた。

「悪いなー、壊が動かなくて遅れた」

「動かなかったんじゃない。動けなかったんだ。正直言うと、今もキツい」

「ということらしい」

「大丈夫なの? 」

 席を立って、夜宵やよいが俺の顔を覗き込んでくる。いや、近い近い。こいつたまに距離感バグるよな。

「ああ、まぁ……大丈夫だろ」

「あんまり無理しないでね? 」

「わかってるよ。ありがとな」

 そして、心配してくれるのはありがたいんだが、周りの視線が痛い。ものすごく痛い。なんなら筋肉痛の痛みより痛い。

 まぁ学校トップの美少女から直接心配されてるわけだし、そこらの男子は嫉妬心が凄そうだ。

「お前ら! 絶対時雨なんかに負けるなよ‼ 」

『おー‼ 』

 少し離れたところにできていた、どっかのクラスの男子の集まりがそんなことを叫んでいた。

 なんなんだこいつらのやる気は。そのやる気、絶対別の物事に向けた方がいいぞ。……ていうか何で俺の名前知ってんの⁉ えっ⁉ いや、でもこいつらとずっと一緒に行動してたら名前くらい広まるか。

「あはは~壊くんも大変だねぇ~」

「誰のせいだと思ってるんだ。まったく」

「ご、ごめんね……その……私だよね……? 」

 まぁ大部分はそうだろうな。だが。

「夜宵だけじゃない。俺の周りには朝姫あさひも零もいるからな」

「え? 俺も悪いの? 」

「当然だろ。まぁ、俺がイケメンじゃないのがいけないのかもしれないが」

「え? 完全にそれじゃね? 」

 逡巡の迷いもなく零が肯定してきた。

「お前、殴られたいのか? 」

「嫌に決まってるだろー」

 何でかわからないが、零相手だとヴァイオレンスになってしまう。いけないいけない。まぁ、実際に殴ることは滅多に無いが。

「ま、まぁまぁ~そろそろ始まるからその辺にしよ~? 」

 朝姫がそう言ったところで、アナウンスが流れる。

『まもなく、体育祭を開始します。生徒の皆さんはグラウンドへ集まってください』

「あ! ほら、始まるって~行こ~」

「うん。行こう」

「そうだなー」

「はぁ……暑い……」

 四人様々に答え、陽炎かげろうが揺れる炎天下のグラウンドに向けて、歩き出した。



          ◇◇◇



 バァン‼


『始まりました! 皆、僅差で走っています‼ 今パンが吊るしてあるところへ全員がたどり着きました! おおっと! 一組が華麗にパンを加えて一歩リードしています‼ 』

 今はいくつか競技を終え、一年生によるパン食い競走が始まっていた。

 そして今走っているのは、俺の親友である零だ。

「やっぱり、パン食い競走でも、こう、みっともなくならないでイケメンでいられるのって、ズルいと思うんだ俺」

「そうだね……一回飛んだだけで綺麗に咥えてるものね……」

「まぁ零くんは運動できるしね~」

「確かにそうだった」

 あいつは俺たちと一緒で、基本インドアだが、俺と違って運動神経は悪くないし、体力もある。まぁ、あいつがやってることには体力が必要で、そのために走り込みを普段からしているから、俺との違いが生まれたんだろう。

『一組、今一着でゴールしました‼ 余裕の一位です‼ 』

 ゴールした零がこっちに向かって手を振っている。相変わらずのイケメン面だ。走ったあとなのに疲れた様子も無い。俺は走ってすらないのに疲れてるっつーに。すごいなあいつ。


 その後も何人か走り、パン食い競走が終了して零が戻ってきた。なんかパン食ってる。

「お疲れ」

「ほー、ほふはれー。ひっひゃくほっはほー(おー、お疲れー。一着取ったぞー)」

「見てた見てた。おめ。あと、飲み込んでから喋れ」

 零が言われた通り、しっかりパンを飲み込んでから口を開く。

「まぁ、あれくらい普通だけどなー」

 俺はその普通ができないんだがな。まぁ今更だが。

 夜宵と朝姫がいないのは、この次が女子の玉入れで、その準備に向かったからだ。

「はぁ……もう少ししたら俺の騎馬戦か……吐きそう」

「ははっ、まぁ頑張れ。なんとかなるだろー、練習何とかなってたし」

「それならいいんだがな。いや、まじでそうあって欲しい」

 練習では騎馬が崩れることなく動けていたし、俺自身も落ちることなくやれていた。あとは、ハチマキを取られたりしなければ大丈夫なはずだ。

「おっ、玉入れ始まったぞー」

「ほんとだ。あっ、あれ夜宵と朝姫じゃね? 」

 二人の視線の先には、白い玉をいくつか持って投げ入れる夜宵と朝姫の姿があった。

「なんか……うまくね? うちのクラス」

「確かに……他のクラスの倍近くは入ってるぞ」

「これ勝ち確だなー」

「そうだな」

 え、まじで? 自分のクラスが勝つのは素直に嬉しいんだが、零も勝って、夜宵と朝姫も勝ったら、なんか流れ的に俺も勝たなくちゃいけない流れになってね? え? 勝てるかな? ……あ! いや、違う。これは、俺も勝てるパターンなんだ‼ この流れに乗れば、なんとなく、きっと、多分、勝てるんだろう‼ よし、やってやるぞ騎馬戦‼

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