第4話 いつも通りのような朝。

「なぁ、今日何あったっけ? 」

「今日は現文と古典と数Ⅰとコミュ英と、あとは体育二時間だったかな」

「はぁ……なんで体育二時間もあるんだ。いらないだろ二時間も」

 俺は朝食である何も塗っていない焼いたパンを頬張りながらぼやく。

 なぜ何も塗っていないかって? うーん……俺はそっちの方が好みだとしか言いようがないな。つまり、特別理由はない。

「二時間あるのは体育祭が近いからでしょ。仕方ないよ」

 夜宵やよいはしっかりブルーベリージャムを塗っている。俺の作るハンバーグが好きって言っていた割に、こいつは結構甘党だったりする。

「体育祭とかいう人柱の儀式はもう開催取りやめた方がいいまである」

「人柱って、そんなことないでしょ」

「そんなことあるだろ‼ 」

 俺は机を勢いよく叩きながら立ち上がる。

「えっ⁉ ど、どうしたの急に」

「体育祭はなぁ! 何故か必ず何かの種目に出なくてはいけなくて、クラスの奴らがどんどん出場種目決めていって、余ったやつが俺に飛んできて、いい結果を残さなかったら血祭りにあげられるんだぞ! やりたくもないのにやらされるなんて人柱じゃなかったら何だって言うんだ‼ 」

「わ、わかったから、落ち着いて、ね? 」

「はっ! お、俺は一体……」

「あ、無意識だったのね……」

「と、とにかく、俺は体育祭なんて知らん」

 本当に体育祭なんてもうりだ。中学の最後のクラス対抗リレーで俺が走り始めた途端、一着で走っていたのにいつの間にか最下位の一周遅れになってしまった。それはもうクラスの雰囲気はお通夜つや状態だ。そんな俺をいつも励ましてくれたのは朝姫あさひだったな。まじで天使だ。れいの奴は面白がってたが。あ、思い出したら腹立ってきた。今日会ったら一発殴ろう。うん。

「でも、体育祭まで毎日体育あるとか先生言ってなかったっけ? 」

「は? 聞いてないんだけど? まじ? 」

「え? うん」

「ていうか体育祭っていつだっけ? 」

「体育祭嫌でもそれくらい覚えておこうよ…………二週間後だよ」

「二週間もあるのか……」

 ああ、もういっそ地球滅びないかな……。

「わ、私も頑張るから! 一緒に頑張ろう? 」

「お前は何でもできるんだから俺とは違うだろ」

「そんなことはないよ? 私だってできないことあるし。ほら、家事とか? それに、体育祭も別にやりたいわけじゃないしね」

「そうなのか? 」

「うん」

 夜宵が体育祭を楽しみにしていないのは正直意外だったな。なんか、こう、学校行事は全部全力で楽しみまーす‼ 的な奴だと思ってたから。

「だって、体育祭って土曜日じゃない? いつも休日にゲームやってるから、ゲームやる時間が無くなっちゃうのよね。振替休日はあるだろうけど、平日と休日じゃドロップするアイテムとか変わってくる時があるから予定立て直さないといけなくなるし…………」

 前言撤回しよう。こいつは全くブレないわ。

「ゲームもほどほどにしとけよ」

「わかってるよ」

 ならいいんだけどな。あ、そろそろ時間だな。

「そろそろ家出ないと。準備できてるか? 」

「うん。後は着替えるだけだよ」

「そうか。それじゃ、俺も着替えるか」



          ◇◇◇



 あー! ヤバかった! もう平静保つので精一杯だったよ‼ そう簡単に昨日のこと忘れられるわけないじゃん‼ っていうか、なんで向こうはあんな平然としていられるの? ずるいじゃん‼ あ、いや、平然じゃないか。怒り? 狂ってたね。普段はクールな感じだし、あんなかいくんは珍しいな。ここ二か月で初めて見た。ふふっ、新しい壊くんが見れて今日は良い日かも?

 ああっ、こんなこと考えてる場合じゃないや。早く着替えなきゃ。

 えーっと、制服を取り出して、着替えて、髪も整えて、しっかりリップも塗って、鞄も持って――――

「おーい、そろそろ出るぞー! 」

「はーい、今行くー! 」

 さぁ、今日も一日頑張るぞー‼



          ◇◇◇



「よし、いつも通りの時間だな」

「そりゃいつも通りだからなー」

「そうだね~」

「いつもと違ったら、その方がおかしいよ」

 夜宵の言葉に俺は頷いた。いや、まぁ、確かにそうだと思ったからな。

 さっきも言った通り、いつも通り夜宵と家を出た後、まず朝姫と待ち合わせしている神社の上り階段の手前まで行き、朝姫と合流し、そのまま店が連なっている通りを突き進んで住宅街に入り、零と合流する。そして学校まで直行だ。

 これが、俺たちのいつも通りである。

「まぁとりあえず席に着こう。もう少ししたら先生来てホームルームが始まるからな」

 俺の言葉に三人は頷いて自分の席に座った。

 にしても教室は涼しいなぁ。エアコンが窓際の真ん中らへんにあるから、教室の真ん中にある俺の席に冷風がちょうど来るんだよな。外でじりじり焼かれた体に染みるぅ。登校中は地獄みたいに暑かったからな。まだ六月初めだけど、最近は既に暑くて涼しさなんてどっかに行ってしまった。

 こんな環境で体育二時間もやるとかアホなのか? 絶対やんない方がいいだろ。うん。体育とか抹消した方が世のためだな。はぁ……午後の体育が今から憂鬱だ。


 バァーン‼


 うわぁっ! び、びっくりした。何かと思った……扉の音か。

「だ、大丈夫だよね⁉ まだ遅れてないよね⁉ 」

「大丈夫です先生。まだ遅れてませんよ。一分前です」

 いつものことのように夜宵が冷静に言葉を返している。

 そう、この光景はこの一年一組では毎日のことだ。

 慌てて教室に入ってきた、灰青色はいあおいろの瞳に赤茶色の髪をミディアムに切り揃えた女性はもちろん担任である。

 彼女の名前はすずちゃ……ゲフンゲフン、雫川珠涼しずかわみすず先生だ。一年一組、二組、四組の現文を担当していて、一年一組の担任だ。この様子からわかるだろうが、少し時間にルーズなところがある。穏やかな性格をしていて、生徒からも他の先生からも結構人気のある先生だ。ちまたでは親しみを込めて、すずちゃんと呼ばれたりしているらしい。

 まぁ、それを本人を前にして言うと威厳がどうのこうのっていろいろ言ってくるらしい。つまり、この呼び名は公認ではないということだ。皆も気をつけような。


 キーンコーンカーンコーン


「あ、チャイム鳴りましたね! それでは、ホームルームを始めたいと思います! 」

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