第3話 夜宵がやりたいこと。
俺は、
そして、あるチャンネルの配信予定地と書いてある画面をタップし、配信準備中の画面を開く。
配信が始まる前に、俺は冷蔵庫から必要な材料を取り出した。そこで、ちょうど配信が始まった。
一人の女の子のイラストが動いている。
『やっほーみんなお待たせ―! 今宵の空に
少女が綺麗な口上を決めると、コメント欄に『大丈夫だよ』コメントが大量に流れる。
『ありがとー。みんな優しいね』
そして、気になるこのEvenightなる女の子は紛れもなく夜宵だ。
さっき慌ててこの部屋を出て行ったのは、この配信をするためだ。
彼女は、親にこの活動を始めるのを反対されて喧嘩をし、家から出て行くことを決断したらしい。それで
『なんかね、私の同居人がね、珍しく雑誌を読んでて話し込んじゃって。やっぱりオシャレって難しいね! 』
夜宵、いや、ここではそうだな……イヴと呼ぶことにしよう。
このイヴは、あろうことか、一か月前の初配信時に、自分が男子高校生と同棲していることをリスナーに話しているのだ。それがプチバズして、今は登録者が一万人後半くらいいる。多分、イヴ自身現役女子高生で、同棲相手が男子高校生というところで、ラノベみたいな展開に皆食いついたんだろう。
もちろん配信が面白くなければ登録者は減っていく一方だ。だが、減っていないのは彼女の配信が面白いからなんだろう。声のポテンシャルとかも少しは関係しているだろうけれど。
俺はあまりこういうコンテンツには触れてこなかったからよくわからない。個人勢? と企業勢? っていうのがあって、個人勢は有名になるのが難しいっていうのと、イヴがこの個人勢っていうのだけは知っている。
まぁとりあえず俺は、ちゃっちゃと料理しよう。
俺は料理しながらイヴの配信をBGM代わりに聞く。
『はぁーい、今日は最近話題のMMORPGをやっていこうと思うよー! 私MMORPGって好きなんだよね! なんていうか、自由って感じがするから! 』
夜宵は今まで自由じゃなかったんだろうか。まぁ立場を考えればそうおかしくはないか。なんせ夜宵はお嬢様だからな。
そういえば、空いた時間にやるゲームだけが唯一の楽しみだとか言ってたな。小さいころに触れて、それからどんどんハマっていったとか。
俺は基本自由だったし、不満なんてそんななかった。親は二人とも仕事で忙しそうだったし、俺はそれを理解していた。そのおかげで俺は家事もできるようになったし、好きなことをする時間もあった。お小遣いも結構貰ってて大抵は好きなものを買えた。本当に不自由ない生活だ。
画面の向こうでやりたいことをやっている彼女は、本当に自由で楽しそうだ。
「ふふっ」
つられて俺も笑ってしまった。
夜宵が楽しそうでなによりだ。
俺は作業に戻る。
『おー! あっこの攻撃モーションかっこいい! いいね! ん? あっガチャ引ける! どうしよう……ガチャ引いちゃおっか‼ どんなキャラ出るかな? 』
イヴが早速十連ガチャを引いていた。画面が虹色に輝いている。えっ早速最高レアでも出たのか? 運良すぎだろ。
『おおー! 星五だ! 最高レア十連一回で出たねー。結構優しいガチャなのかな? …………ん? なんかこのキャラクター私の同居人に似てるような? 』
はっ⁉ どんなキャラだそれ‼
俺はスマホの画面に視線を戻す。
画面には金の
え? 俺こんなイケメンじゃないよ? いや、確かに目と髪の色は一緒……だけども‼ こんな爽やかな表情、俺はしない‼ 何を言っているんだほんとに。
ほらー、コメント欄も『イケメンだ』コメントで溢れかえっちゃったじゃん。
『んー、このキャラ結構タイプかも……』
っ⁉ さ、さっきからコイツは何言ってるんだ! ああ、コメントも俺と同じ反応してるじゃん! 荒れるってさすがに。あっ! ハンバーグ焦げる‼
焦げる前にハンバーグを皿に移して、野菜なども盛り付けていく。
「よし、できた! 」
あとは、これを持っていくだけだけど……うん、今は大丈夫かな。
イヴは今、ストーリーを観ていた。戦闘中じゃないので、手を離せないことはないだろう。
ハンバーグの乗った皿とカトラリーをトレイにのせて、夜宵の部屋の前まで行って、ノックした。
返事がない。
あ、そうだった。配信中はヘッドホンしてるから聞こえないんだ。まぁ持ってきてと言われたし、仕方ない。入ろう。
扉を開けて、椅子に座る夜宵の後ろまで行って、肩を叩いた。
「うひゃあっ‼ 」
夜宵が可愛い悲鳴を上げる。正直、俺はその悲鳴にびっくりしたぞ。
「はい、これ。できたから持ってきたぞ」
マイクに声が乗らないように小さい声で耳打ちする。
ズサァァァァっと、夜宵が右耳を抑えながら椅子ごと後ろに下がった。
「あ、あ、ありがとう」
どうしたんだ? まぁいいや、俺も戻って食べよう。
リビングに戻り、ハンバーグを食べながら、配信の続きを見る。
『ご、ごめんね~。さっき同居人が夕飯持ってきてくれたの! ヘッドホンしてて、急に肩叩かれたからびっくりしちゃった』
『でもねー、今日は私の大好きなチーズインハンバーグなんだー! 今写真撮ってTwitterにあげるね』
うーん……どっかに反射したりして顔バレとかしたら怖いな。そういうので炎上したってのをよく聞くからな。まぁイヴが炎上しても、中身はほとんど変わらないくらい美人だから何も問題ないかもだが。いや、厄介ファンが増えそうだ。
と、Twitterの通知が来た。イヴがハンバーグの写真をあげたらしい。見るか。
うわぁいつも綺麗に撮るな。流石だ。おっ! リプがもう来てる。ふっ、美味そうだろう! 俺が作ったんだ!
『ん~美味しい~! ほんとにこれいくらでも食べれちゃうね! 』
いや、食べ過ぎたら胸焼けするだろこれは。まぁ……食べたいって言うんなら、また作ってやんなくもないが。
コメント欄には『同居人何者なんだ⁉ 』というコメントがだいぶ流れていた。ただの一般人です。はい。ああ、いや、一応作家です。料理人ではありません。
『んん? 同居人のこと知りたい? じゃあ聞いてみる? ちょっと呼んでみるね? って多分配信見てるから、呼べば来てくれると思うな。みんなで一緒に呼ぼう! 同居人さーん来てくださーい! 』
おいおいまじか。まじなのか? コメントも便乗してるし……はぁ、ここで俺が行かないことによってイヴの人気が落ちても嫌だしな…………行くか。
リビングを出て、再び夜宵の部屋に入る。
「おっ! 来たー! 」
この一言でコメント欄が凄い速さで流れていく。
「それでは自己紹介お願いします! 」
「はぁ⁉ 結構な無茶ぶりだな? 」
「いいじゃない別に。私の配信なんだよ? 」
「それは……そうだけど」
俺はため息を吐く。コメント欄は、意外とイケメンな声にさらに盛り上がっている。
「あーっと、俺は……そうだなぁ、実名はまずいだろうから……カイ。海って書いて、カイだ」
「そのままじゃない……」
夜宵が耳打ちしてくる。腕に何か柔らかいものが当たっているが、気にしないことにしよう。
「自己紹介ってことだから、もうちょっと何か言った方がいい? 」
「うん。お願い」
「そうだなぁ……趣味は読書。運動は壊滅的。家事全般は問題なくできる……くらい? 言うことないな」
まぁ作家やってるなんて言えないわな。俺が一般人だって認識だから炎上してないってところも少しはあるだろうからな。いやでも、もしかしたらもう特定されてるかも。ネットこわー。まぁその前に、夜宵にもまだ作家だということは言っていないから言うわけないんだけど。
コメ欄に『意外』やら『彼女いるの? 』やら『私と結婚して』やらいろいろ流れる。いや、結婚するわけないだろ。結構カオスなコメ欄だな。
「なぁ、もう部屋戻っていい? 」
「え⁉ う、うーん……みんなどうしたい? 」
コメ欄は見事に三勢力に分かれた。『早く配信の続きやろうぜ』勢力と、『海様まだいて』勢力と、『どっちでもいい』勢力だ。
「う、うーん……」
「俺は部屋に戻るよ。これはお前の配信だろ? みんなお前の配信見に来てるんだから……今度一緒にやって欲しいなら、言ってくれればやるから。今日はもう風呂入って寝る」
「うん……わかった」
うっ、そんな捨てられた子犬みたいな顔しないでくれっ! なんだか悪いことしてる気持ちになる!
「こ、今度絶対何か一緒にやってやるから! な? だからそんな顔しないでくれ」
「うん」
夜宵の曇っていた顔が少し晴れた。ひとまず安心だ。俺は夜宵の部屋を出て、自分の部屋に戻る。
「はぁ……女子ってわからんな…………」
◇◇◇
今は二十時半。ちょうど配信が終わったところだ。
「終わったぁー! お皿片付けて早くお風呂入ろー。多分、
自室を出て、キッチンへ行き、シンクに食べ終わったあとの皿を置いて、着替えを取るために自室へ戻る。
クローゼットを開けて、箪笥を引く。下着類を取り出し、Tシャツも一枚取り出す。
そのまま洗面所まで直行する。
扉をガラッと開けると半裸の壊が、髪をドライヤーで乾かしていた。幸いパンツは履いている。
あれ? 音してなかったのに……って、え? え? 壊くん? んん? …………うわぁ‼ 壊くんだ‼ 本物だ‼ え⁉ ど、どうしよう‼ っていうかほっそ! 腕ほっそ! 足も細い! 羨ましい! 程よく筋肉もついてるし! てか肌白! 綺麗‼ ヤバい鼻血出そう! あっ! 視界から消せば大丈夫なはず。目を閉じれ――無理だ。私の瞼が全く動かない。瞬きできないヤバい。じゃ、じゃあ扉を閉め――――無理だ。私の腕も動かない! 脳が無意識にこの光景を終わらせたくないって叫んでる! いや、変態か私は! どどどどうしようほんとに!
と、完全に詰んでいたところで、静かに壊が扉を閉める。少し衣擦れの音がしてから、再び扉が開いた。
「風呂入る? 」
すっごい普通だ。もうこれ以上ないくらい普通の反応だ。いや怖いくらい普通だ。
「う、うん」
「そうか。次からはちゃんとノックしてくれ」
「うん」
壊が横を通り過ぎる時、耳が真っ赤になっていた。彼も結構恥ずかしかったらしい。
あっ、えっ、ん~~~~~~~~‼
夜宵は脱衣所で悶えることしかできなかった。
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